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実現はもうすぐ?知っておきたい自動運転のメリット・デメリット

アメリカでは自動運転タクシーが急速に拡大しており、日本でも自動運転の実用化がいよいよ現実味を増してきています。
自動運転の社会実装に向けて、全国の自治体では、自動運転バスやタクシーの実証実験がさかんにおこなわれています。

自動運転には事故の削減やドライバーの負担軽減、渋滞の緩和などのさまざまな効果が期待されています。
もし、ドライバーが不要な完全自動運転が実現すれば、私たちの生活はより便利に豊かになり、社会を劇的に変化させるかもしれません。
一方で、自動運転にはシステムの信頼性や法整備など、さまざまな課題も残されています。

自動運転が国内で本格的に実用化される前に、メリットだけでなく、どんなデメリットがあるのかを知っておく必要があります。

この記事では、自動運転の現状と、社会実装におけるメリット・デメリットについて解説します。

自動運転はどこまで進んでる?

自動運転は、自動化する運転操作の範囲や条件によって、レベル1からレベル5までの5段階に区分されています。
レベル5の完全自動運転の実現に向けて、自家用車と商用車では異なるアプローチで開発が進められています。(図1)*1


図1:自動運転技術の社会実装アプローチ
出所)自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト「RoAD to the L4とは」
https://www.road-to-the-l4.go.jp/about/

自家用車に関しては、2020年にホンダがレベル3自動運転車「レジェンド」を世界に先駆けて発売しています。
レジェンドには渋滞時のドライバーの負荷を軽減する自動運行装置が搭載されており、高速道路の車線内の走行を維持しながら前走車に追従することができます。*2

商用車に関しては、2025年2月、茨城県日立市でのレベル4自動運転バスの営業運行が開始されています。
中型バスとしては国内初となる試みで、走行距離に関しても国内のレベル4自動運転では最長となる約6.1kmです。*3

また、アメリカの一部の都市では、ドライバーが同乗しない完全自動運転タクシーサービスWaymoの商用運用がすでに開始されています。
Waymoは世界初の自動運転ライドシェア・サービスで、サンフランシスコやロサンゼルスなどのエリアで、700台以上の車両が365日24時間稼働しています。(図2)*4


図2:Waymoがサービスを提供している地域
出所)総務省「Waymoのご紹介」p.2
https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/equ/mra/pdf/06/j/2-5_J.pdf

無人自動運転タクシーWaymoは、米国以外の展開として初めて、日本に進出することを発表しています。
具体的なサービス展開の時期は現状では未発表ですが、日本最大手のタクシー会社である日本交通とタクシー配車のプラットフォームのGOと提携し、2025年初頭から東京で自動運転技術の試験が開始されています。*5

自動運転にはこんなメリットも!私たちの生活はどう変わる?

自動運転は、現代の社会が抱えるさまざまな課題を解決し、多くのメリットをもたらします。
自動運転の直接的な効果として、渋滞の解消・緩和、交通事故の削減、環境負荷の低減、高齢者などの移動支援、運転の快適性の向上、国際競争力の強化などがあります。(図3)*6


図3:自動運転の直接的な効果(イメージ)
出所)国土交通省「オートパイロットシステムの実現に向けて」p.14
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/autopilot/pdf/torimatome/sankou.pdf

自動運転のメリットとしてまず挙げられているのが、運転支援システムの導入による渋滞の解消・緩和です。
運転支援システムによって、交通量が多い道路でも、自動で最適な車線を選んだり、適切な車間距離を保つことで、車の流れを円滑化できます。

ACC(自動で車速や車間制御を行う機能を持った装置)導入を仮定したシミュレーションでは、ACC車両混入率30%で、約50%の渋滞が削減できると試算されています。(図4)*6


図4:ACC導入による渋滞削減効
出所)国土交通省「オートパイロットシステムの実現に向けて」p.15
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/autopilot/pdf/torimatome/sankou.pdf

さらに、自動運転による交通事故の大幅な削減も期待されています。
2023年に発生した自動車関連の交通死亡事故は2,288件、そのうち自動車が当事者の事故は88.3%を占めています。(図5)*7


図5:自動車関連の交通死亡事故に占める第1当事者の割合
出所)デジタル庁「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方について」p.3
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2024/442/doc/20240807_shiryou1-1.pdf

これらの事故には、わき見運転やブレーキとアクセルの踏み間違えなど、ドライバーのヒューマンエラーも含まれています。
これまで、人間がおこなってきた運転時の「認知・予測・判断・操作」を機械が代替することで、人的ミスによる事故を大幅に減らすことができると考えられています。

また、バスやタクシーなどの自動運転移動サービスが導入されることで交通分野への直接的な効果だけでなく、観光や医療、教育など他分野への波及効果も見込まれています。(図6)*8


図6:自動運転移動サービス導入の価値
出所)国土交通省「自動運転移動サービス社会実装・事業化の手引き」p.65
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001751816.pdf

自動運転移動サービスは、少子高齢化が進んでいる地域や、公共交通の空白地域での新たな交通手段としての役割も期待されています。

路線バスをはじめとする公共交通のドライバーの高齢化や人手不足が深刻化している岩手県釜石市では、2024年8月から自動運転バスの実証実験をおこなっています。
この実証実験は将来的な社会実装を見据えたもので、自動運転技術の立証や社会受容性向上を目的としています。(図7)*9


図7:実証実験に使用されたエストニア製の自動運転バス
出所)釜石市「自動運転バス実証実験の実施について」p.2
https://www.city.kamaishi.iwate.jp/docs/2020121800035/file_contents/siryou2.pdf

実証実験では、駅やバス停、スーパーマーケット、病院などの生活に必要な施設へアクセスしにくく、比較的高齢化が進んでいるエリアでおこなわれました。
新たな移動手段として自動運転バスが導入されれば、生活の足の確保につながります。

今後、日本の人口は急速に減少していき、2050年には全国の居住地域の半数が人口が半減するという予測もあります。
すでにドライバー不足は進んでおり、厚生労働省の調査によると、自動車運転手の有効求人倍率は全就業平均の2倍になっており、人手不足は深刻な状況です。(図8)*10


図8:自動車運転業の人手不足
出所)デジタル庁「モビリティ・ロードマップ 2024」p.4
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/2415ad00-6a79-4ebc-8fb1-51a47b1b0552/53e634ee/20240621_mobility-working-group_main_01.pdf

住民の高齢化に加え、高齢ドライバーの免許の自主返納もある程度進んでいることから、生活に必要な公共交通機関を維持していくことが困難になると考えられます。
ドライバー不足を解消する自動運転バスは、地域の暮らしを支える重要な交通手段の一つになるかもしれません。

事故のリスクは?知っておきたい自動運転のデメリット

自動運転はヒューマンエラーによる事故を軽減できることが期待されていますが、システムエラーが発生するリスクもあります。
どんなに優れた自動運転システムであっても万能ではなく、交通事故を根絶できるわけではありません。

すでに実用化しているドライバーをアシストするタイプの自動運転システムも、故障していなくても環境や条件によっては作動しないことがあります。
たとえば、急な車両の割り込みや雨・雪・霧などの悪天候、障害物によって車線の白線が検知できないなどの状況で、システムが周辺の状況を正しく検知できず、不適切な制御によって事故を引き起こす可能性があります。(図9)*11


図9:運転支援システムが作動しない状況の例
出所)国土交通省「「運転支援システム」を過信・誤解しないでください!」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety034.html

国土交通省は運転支援システムを過信しすぎないように呼びかけており、「安全運転の責任は運転者」であることを強調しています。

また、システムが主体となるレベル4以上の自動運転が実現した場合における事故の責任の所在についても、検討の余地があると指摘されています。
現行の法律では、以下の表1のように解釈が可能で、死傷事故を起こした運転手と自動運転システムの開発者が刑事責任を追及される可能性があります。*12


表1:自動運転システムの設計者に適用される刑事処罰
出所)国土交通省「「自動運転時の事故における法的責任」p.16
https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/gian/hoan/seminar2021/iwatsuki.pdf

法整備に関しては議論の段階で、レベル4の自動運転が実現した際に、開発者だけでなく開発メーカーの責任を問う規定を創設すべきであるという意見もあります。

自動運転は社会に受け入れられるのか

自動運転は事故軽減や渋滞緩和などのメリットに加え、少子高齢化が進む日本における新しい交通手段としての役割も期待されています。
しかし、自動運転にはシステムエラーによる事故のリスクや法整備が進んでいないなどの課題も残されています。

保険会社のチューリッヒが2023年に実施した自動運転に関するアンケートでは、特定条件下で完全自動運転が実現することに対する不安として、「システムの誤作動やエラー」と答えた人が80.0%ともっとも多く、次に「事故が起きた際の責任の所在」「ドライバーの規範意識の低下」が続きます。(図9)*13


図10:走行ルートなど特定条件下で完全な自動運転が実現することに対する不安(複数回答)
出所)チューリッヒ「23年4月、自動運転レベル4の公道走行解禁『自動運転に関する意識調査』を実施」
https://www.zurich.co.jp/car/useful/guide/survey230412/

このアンケート結果からもわかるとおり、自動運転のデメリットと考えられていることが、ユーザーの不安にそのまま反映されていることがうかがえます。

一方で、自動運転の技術開発は世界中で急速に進められており、アメリカではレベル4の自動運転タクシーが実用段階に入っています。
自動運転の技術とルールのどちらも確立され、レベル4の特定条件下における完全自動運転が社会に受け入れられるのも、時間の問題かもしれません。

参考文献

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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