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自動運転バスがついに運行開始 自動運転技術が実現する未来の公共交通ネットワークとは?

近頃は自動運転に関するニュースがメディアで取り上げられることも増え、実用化に向けた取り組みが加速しています。

自動運転と聞くと、自家用車をイメージする方も多いかもしれませんが、社会実装に関しては、バスやトラックなどの商用車が一歩リードしています。
2024年には多くの自治体で自動運転バスの実験走行が実施され、安全性や乗り心地が確認されました。
さらに、2024年12月には、全国初となるドライバーを必要としない「レベル4」での自動運転バスが愛媛県松山市で運行開始しました。
労働力不足が懸念される地方自治体でも、自動運転技術を活用すれば、持続可能な交通コミュニティを形成することができると期待されています。

この記事では、自動運転技術の現在地と公共交通ネットワークにおいて期待される自動運転の役割について解説します。

自動運転の技術はどこまで進んでる?

運転は、目や耳で周辺状況を把握する「認知」と、認知にもとづいて行動するための「判断」、認知と判断によって実際に手や足でハンドルやアクセルなどを操作する「操作」の3要素によって成り立っています。
自動運転は、運転に必要な3要素をドライバーの代わりにさまざまなシステムがおこなう技術です。(図1)*1

図1:自動運転とは
出所)東京都「自動運転について」
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/cross-efforts/jido-unten/jido-untennitsuite

自動運転は、走行環境や機能によって以下のようにレベル分けされており、一定の条件を満たす区間のみでアクセル・ブレーキまたはハンドル操作を自動化するレベル1から、すべての環境でドライバーが不要となるレベル5まであります。(図2)*2

図2:自動運転レベル
出所)経済産業省「自動運転に関する経済産業省の取組・方針」p.3
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/83b26b14-5c99-4268-970c-fefc1f0a7b71/bd7b41be/20230725_meeting_mobility_roadmap_outline_05.pdf

現時点で自家用車ではレベル3、商用車ではレベル4まで実現しており、レベル1〜2に関しては、すでに多数の車に搭載されています。*2

すべての区間でドライバーが不要となるレベル5の完全自動運転を目標とし、自動運転技術の開発は着実に進められています。
レベル1に相当する衝突被害軽減ブレーキは、2019年の時点で9割を超える新車に搭載されており、2021年には世界で初めて高速道路での自動運転が可能なレベル3の自家用車が販売されました。
特定の条件下で完全自動運転が可能なレベル4に関しては、道路交通法の改正により2023年4月から可能になっています。(図3)*3

図3:自動運転技術の現状と目標
出所)国土交通省「自動運転に関する取組進捗状況について」p.3
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001583988.pdf

世界に先駆けて販売が開始されたレベル3の自家用車ホンダ・レジェンドは、高速道路での渋滞時に、車線内を維持しながら前走車に追従することが可能です。
ホンダ・レジェンドの自動運行装置は、カメラやレーダーなどによる車両周辺の外界認識と衛星システムによる自車位置認識、ドライバーの状態を検知するドライバーモニタリングカメラなどによって構成されています。(図4)*4

図4:自動運行装置の構成
出所)国土交通省「世界初! 自動運転車(レベル3)の型式指定を行いました」p.2
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001372477.pdf

レベル5の完全自動運転を目指すためには、近年急速に普及が進んでいる生成AIも重要な役割を担っています。
生成AIの学習機能によりルートを最適化したり、音声認識技術によってドライバーの声で指示を出すことが可能になります。
デジタルテクノロジーの発展とともに自動運転の世界市場も成長することが見込まれており、2026年には約620億ドル規模に達すると予測されています。(図5)*5

図5:自動運転車の市場規模
出所)総務省「特集② 進化するデジタルテクノロジーとの共生」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd132300.html

運転手不要?愛媛県で自動運転バスが運行開始!

2024年12月、愛媛県松山市では、特定の条件下で完全自動運転が可能なレベル4の路線バスの運行が開始されました。
これは全国初となる取り組みで、松山観光港と伊予鉄道高浜駅を結ぶ約1.6kmのルートで毎日運行されます。
導入される車両は電気エネルギーで走るEVバスで、制限速度40km/hの道路を最高速度35km/hで走行します。(図6)*6

図6:自動運転バスの車両デザイン
出所)IYOTETSU「全国初「自動運転レベル4路線バス本格運行」について」p.2
https://www.iyotetsu.co.jp/sp/topics/press/2024/1210_gbac.pdf

自動運転バスにはセンサーやカメラが合計42台搭載され、周辺の車両や歩行者などを検知しながら走行します。
運転手は乗車しませんが、緊急時の安全対策として保安員が車両に配置されます。
さらに7.5km離れた営業所から、運行状況の遠隔監視もおこないます。*6 ,*7

深刻化するバス業界の人手不足を解消するために、全国でも自動運転バスに関するさまざまな実証が進められています。
2021年に国内の自治体で初めて、レベル2の自動運転バスが導入された茨城県境町では、導入開始から1年間、3台の自動運転バスが無事故で運用を継続することができました。
鉄道駅が存在しない境町では、自動運転バスが市民の足として活躍しており、今後はさらに運行エリア拡大していく予定です。(図7)*8

図7:茨城県境町における自動運転バス実用化事業
出所)国土交通省「ビッグデータ・自動運転バスを用いた地域経済活性化」p.3
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/soukou/content/001489842.pdf

茨城県境町で運行される自動運転バスのルート・ダイヤ設定には、ビッグデータが活用されています。
ビッグデータによって住民の潜在的な移動ニーズを洗い出すことで、地域全体の人の動きを活発化させ、消費拡大や経済活性化につなげることが狙いです。*8

また、東京都大田区では、2025年1月から羽田空港周辺エリアの市街地を走行するレベル2の自動運転バスの実証運行が開始されました。
この取り組みでは、自動運転の技術検証だけではなく、「社会受容性の向上」も目指しており、一般の方でも利用しやすいように、自動運転バスのルートの途中に複数の乗降箇所が設置されています。
運賃は無料で、満席でなければ事前予約なしで乗車することも可能です。*9

自動運転技術が実現する持続可能なまちづくり

少子高齢化が進む日本では、2050年には全国の居住地域の約半数で人口が減少することが予測されています。
人口減少によって中小店舗の廃業や学校、病院の統廃合が進めば、買い物や通学、通院などの日常生活における「移動」が困難になってしまうかもしれません。
また、高齢ドライバーの自動車免許の返納が進んでいる反面、地域によっては返納後の移動手段が十分に確保されていないことも課題となっています。*10

このような状況を解決するため、国土交通省では地域公共交通の「リ・デザイン(再構築)」を掲げています。
そして、地域公共交通の「リ・デザイン」の柱の一つである交通DXでは、地域づくりの一環として自動運転バスサービスの実証事業を支援しています。*10

広島県東広島市では、まちづくりと一体となった交通ネットワークを構築するため、持続可能なモビリティサービスの導入を推進しています。
そのひとつが、自動運転・隊列走行BRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)で、バス専用レーンを設置することで公道での早期導入を目指しています。(図8)*11

図8:自動運転・隊列走行BRT導入のイメージ図
出所)JR西日本「次世代モビリティ「自動運転・隊列走行BRT※」」
https://www.westjr.co.jp/company/action/region/list/2024062801.html

東広島市では、2023年度からJR西条駅と広島大学東広島キャンパスを結ぶルートでBRTの実証実験をおこなっています。
この実証では、2つ以上の車体で構成される連節バスと大型バスが、車両間で相互に情報をやりとりする車間距離制御によって隊列走行をおこないます。
現時点ではドライバーが運転操作の主体となる自動運転レベル2ですが、将来的にはレベル4の認可取得を目指しています。*12

岐阜県岐阜市では、「自動運転バスがいつも走っているまち」を目指し、公共交通ネットワークにおける自動運転技術の導入を推進しています。
市民や観光客などの利用者の多いJR岐阜駅と岐阜公園及び川原町界隈を結ぶルートで、誰でも気軽に乗車できる自動運転バスの実証事業をおこなっています。(図9)*13

図9:自動運転バスの実証実験
出所)岐阜県岐阜市「持続可能で利便性の高い公共交通ネットワークを目指した自動運転技術の導入事業」p.1
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kinmirai/pdf/1903_gihu_jigyou.pdf

2023年からは全国初となる中心市街地での5年間の継続運行を実施しており、持続可能な公共交通ネットワークの構築を目指しています。*14

おわりに

少子高齢化による人材不足や、交通空白地域の解消に貢献する自動運転技術は、まちづくりにも積極的に活用されています。
自動運転バスは、人口や街の規模に関わらずさまざまな自治体で導入が進められており、市民が気軽に試乗できる取り組みも実施されています。

2024年には愛媛県松山市でレベル4での自動運転バスも運行開始され、今後は他の自治体でも実証段階から本格的な運用へと移行していくことが予想されます。
新しい公共交通として、自動運転バスが私たちの生活に欠かせない存在となる日も近いかもしれません。

参考文献

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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