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もの作りの安全を守りウェルビーングを目指す!「協調安全」が創る安全で豊かな社会

働く人の安全・健康・ウェルビーイングは、今や企業にとって最も重要な経営課題の1つです。

セーフティグローバル推進機構(IGSAP)は、新しい安全の概念・技術である「協調安全/Safety 2.0」を提唱し、働く人の安全と企業価値の向上に貢献するために設立されました。
2016年の設立以降、多数の海外機関・企業と連携しながら、働く人の安全・健康・ウェルビーイングを推進しています。

その取り組みとはどのようなものでしょうか。

「協調安全/Safety2.0」の理念

現在、国は「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」としてSociety 5.0を提唱、推進しています。*1
「協調安全/Safety2.0」は、そうしたSociety 5.0時代にふさわしい、安全の概念、技術です。*2

「協調安全/Safety2.0」とは、ICT(情報通信技術)などのデジタル技術を駆使し、人と機械と環境が互いの情報を共有・連携しながら、人の安全を確保しようとするものです。

IGSAPがこのコンセプトやスキルを世界に発信すると、ヨーロッパを中心に海外の多くの専門機関や企業などに受け入れられ、現在では国際標準化に向けての取り組みが進められています。

さらに「協調安全/Safety 2.0」は、人を中心に据え、働く人のやりがいや生きがいを高めることを目指しています。
この考え方は、働く人の安全・健康・ウェルビーイングを実現する世界の一大潮流「ビジョン・ゼロ(VISION ZERO)」のコンセプトと合致します。

ビジョン・ゼロは、2014年ドイツで開催された「世界労働安全衛生会議」でゼロアクシデントを目指して提唱されました。*3
2017年に、国際社会保障協会(ISSA)はそのコンセプトを「安全・健康・ウェルビーイング」の3つの次元で、職場における事故と疾病を予防する革新的アプローチと定め、ビジョン・ゼロのキャンペーンがスタートしました。
現在、世界で10,000社を超える企業・団体がパートナーとして参画し拡大を続けています。

IGSAPはビジョン・ゼロ活動に参画し、2022年5月には「第2回 ビジョン・ゼロ サミット ジャパン2022」を主催するなど、世界のビジョン・ゼロ活動の中心メンバーとして多数の海外機関・企業と連携しながら、働く人の安全・健康・ウェルビーイングを推進しています。

「協調安全」を支えるホリスティック・アプローチ

「協調安全」とは、人・もの・環境が情報を共有することによって協調しつつ安全を構築する、安全の概念です。*4

協調安全を産業界に浸透させるために、ホリスティック・アプローチ(包括的なアプローチ)が用いられています。*5
ホリスティック・アプローチは、「技術」「マネジメント」「人材」「ルール形成」の4つの柱で構成されています(図1)。


図1 協調安全を推進するための「ホリスティック・アプローチ」
出所)一般社団法人 セーフティグローバル推進機構(IGSAP)「活動内容」
https://institute-gsafety.com/activity/

それぞれの分野を順にみていきましょう。

安全技術改革を目指す技術的方策「Safety 2.0」


図2 ホリスティック・アプローチ「技術」*6
出所)一般社団法人 セーフティグローバル推進機構(IGSAP)「ホリスティックアプローチ 技術」
https://institute-gsafety.com/activity/technic/

協調安全の「技術」面はSafety 2.0を基軸としています。*4
Safety 2.0は、情報通信技術(ICT)などを活用する技術的方策です。

人ともの(機械)の関係に着目して、Safety 0.0、Safety 1.0、そしてSafety 2.0の特徴をみてみましょう(図3)。


図3 Safety 0.0、Safety 1.0、Safety 2.0の特徴
出所)一般社団法人 セーフティグローバル推進機構(IGSAP)「協調安全とは」
https://institute-gsafety.com/certification/safety2/

安全の当初の取り組みであるSafety 0.0では、人の注意力や判断力によって安全を確保してきました。この方法では、機械の領域や、人と機械の共存領域ではリスクが高い状態です。

次の段階の取り組みであるSafety 1.0では、機械に安全対策を施すことにより、機械自体のリスクを下げると同時に、人と機械を隔離する、つまり人と機械の共存領域をなくすことによって、安全のレベルを引き上げています。

ところが最近では、生産性を高めるために人とロボットなどの機械が共存する現場が増えてきました。また、熟練者の減少によって現場力が低下しています。
このように、Safety 1.0の取り組みでは対応が困難になりつつあるのです。

これをカバーするのが、Safety 2.0です。人とものと環境が協調することで、人と機械それぞれの領域はもちろん、両者の共存領域の安全も高く保つことが可能です。

Safety 2.0を活用した協調安全による安全化は、もの作り分野だけでなく、物流システムや交通における移動体との安全、土木・建築機械との安全や作業安全、農業機械との安全、医療・介護分野での人の安全、さらに社会インフラの状態変化に対する安全など、広範囲に適用可能です。

風土改革を目指す「マネジメント」


図4 ホリスティック・アプローチ「マネジメント」
出所)一般社団法人 セーフティグローバル推進機構(IGSAP)「ホリスティックアプローチ マネジメント」
https://institute-gsafety.com/activity/management/

開発設計・供給段階で技術を確立しただけでは十分とはいえません。*7
技術が作業現場で適正にシステムとしてインテグレートされ、作業者やオペレータに適正かつ持続性をもって運用されなければ協調安全は実現しません。

そのために不可欠なのが、技術マネジメントとトップマネジメントです。

まず技術マネジメントでは、作業者のスキルや経験、安全機能の点検、設置環境の変化といった要素を踏まえたマネジメント・ルールの構築が必要となります。

次に、技術マネジメントを適正に実現するには、トップマネジメントが重要です。ここで有効なツールが、安全・健康・ウェルビーイングを目指すために世界で広く導入されている、上述のビジョン・ゼロです。
ビジョン・ゼロは、トップのコミットメントにより、企業に安全・健康・ウェルビーイングの風土を醸成し、それに向けたマネジメントルールを構築するのに有益です。

意識改革を支える「人材」


図5 ホリスティック・アプローチ「人材」
出所)一般社団法人 セーフティグローバル推進機構(IGSAP)「ホリスティックアプローチ 人材」
https://institute-gsafety.com/activity/hr-development/

これまでみてきた「技術」と「マネジメント」を適正に実現するためにコアとなるのが、これらに携わる人材です。*8

協調安全が目指す「ポジティブ安全」を十分に理解した人材が階層や職制に応じて職務を積極的に遂行することが、現場で働く人々の意欲を増進し、働きがいを醸成することにつながります。

また、こうした人材育成のためには、教育訓練体系を整えることが不可欠です。
IGSAPでは、企業トップを含む経営層および安全管理者・安全スタッフ向けの「セーフティオフィサ資格制度」とロボットシステムに関する設計・生産技術者やシステムインテグレータ向け「ロボットセーフティアセッサ資格制度」を提供しています。

世界共通プラットフォームとしての「ルール形成」


図6 ホリスティック・アプローチ「ルール形成」
出所)一般社団法人 セーフティグローバル推進機構(IGSAP)「ホリスティックアプローチ ルール形成」
https://institute-gsafety.com/activity/standardization/

IGSAPは、国内外の安全関連機関や標準化機関などと連携して、協調安全の標準化に向けた取り組みを行っています。*9

協調安全の実装をグローバルに示す際、国際標準化が最適のツールとなります。
協調安全プラットフォームとしての国際標準規格とその適合性評価の結果は、安全先進企業、ウェルビーイング先進企業であることを社会に表明する手段となるのです。
また、国内外の労働安全規制当局の参照基準となることも期待されます。

IGSAPは協調安全の国際標準規格の提供を先取りして、協調安全を適用した安全な現場であることを証明する「Safety2.0適合審査登録制度」を提供しています。

「モノづくり委員会」の発足

日本発の新たな安全の考え方「協調安全」を活用し、もの作り現場の安全・安心・ウェルビーイングを推進する官民連携組織「モノづくり委員会」が2024年1月、IGSAP内に発足し、注目を集めています。*10

トヨタ自動車や花王、三菱電機、安川電機、オムロンなど民間企業13社に加え、経済産業省のロボット政策室、国際電気標準課もオブザーバーとして参画しています。

同委員会は、ガイドラインの発行や多様なもの作り環境での応用事例の開発、さらに現場への導入を加速させる予定です。
また、そうした活動の成果を取り入れた「協調安全の国際標準化」を目指し、国際電気標準会議(IEC)などに提案を行う計画も立てています。

協調安全は日本初の先端的なコンセプト、技術として、世界のもの作りの現場をより安全でウェルビーイングなものにしようとしています。
その動向に留意しつつ、もの作りの現場への導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
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