多くの自然災害リスクを抱える日本では、防災の取り組みを時代とともにアップデートし、社会の進展や災害の激甚化に対応しています。
こうした流れのなかで、デジタル化やAI活用が進み、防災・減災の新たな可能性が広がっています。
災害対策基本法をもとに作成される防災基本計画では、AIをはじめとしたIoTやクラウドコンピューティング、SNSなどのデジタル技術を積極的に防災に活用していくことが明記されています。
さらに、内閣府が推進している「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」においては、AIを活用して人的被害の軽減や人手不足解消、迅速な災害対応を目指す技術の研究開発が進められています。
具体的には、AIがSNSで被災者と対話して情報提供するチャットボットや、衛星画像データを解析して被災範囲を即時に判読するシステム、市町村長の避難指示・勧告を支援するための避難判断支援システムなどの事例があります。*3
SIPプロジェクトの一環として開発された市町村災害対応統合システムでは、地域特性をふくむ膨大な情報をAIが解析して避難勧告の判断に必要な情報を市町村長に提供します。
これにより、「逃げ遅れゼロ」「犠牲者ゼロ」を目指した、より確実な避難を支援することができます(図2)。*4

図2:市町村災害対応統合システムの概要
出所)国家レジリエンス研究推進センター「災害対応の最前線における迅速・合理的な意思決定に向けて」
https://www.bosai.go.jp/nr/nr7.html
過去の災害データや気象データ、人や自動車のリアルタイムデータなどを活用することで、これまで自治体ごとに任されていた判断をAIが支援し、適切なタイミングで住民の安全な避難を実現するシステムです。
他にも、デジタル庁では防災DXという取り組みを進めています。
防災DXとは、デジタル技術の活用によって災害情報を共有し、災害対応を最適化することを目的とした取り組みです。
防災DXの取り組みのひとつとして、関係省庁や地方自治体、民間企業と連携し、住民支援のための防災アプリの開発・利用促進、それを支えるデータ連携基盤の構築などを進めています。
2023年3月からは「防災DXサービスマップ・サービスカタログ」をWebサイトに公開しており、防災関連の優れたアプリやサービスを自治体が簡単に検索・利用できる環境を整備しています(図3)。*5

図3:防災DXサービスマップ・サービスカタログ
出所)デジタル庁「デジタル庁における防災DXの取組」p.7
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/f7339476-4afc-42d8-a574-a06bb8843fb5/e7842b9c/20240604_policies_disaster_prevention_outline_01.pdf
利用できる防災分野のサービス・アプリは「平時」「切迫時」「応急対応」「復旧復興」の4つのカテゴリに分けられており、2024年5月末の時点で、193件のサービスが掲載されています。
このように、防災分野におけるデジタル化は着々と進みつつあります。
デジタル技術の活用は、自治体の災害対応力の向上に加え、住民ひとりひとりがより安全に避難できる環境の構築にもつながります。