GXの基本である「脱炭素」に関して、日本では「脱炭素アドバイザー」という資格があります。
国家資格ではありませんが、環境省が2024年8月から認定しているものですので、きちんと名乗れる資格であり、企業の中だけでなく独立したコンサルティング事業もできるようになる可能性があります。
この「脱炭素アドバイザー」資格とはどのようなものか、どのような知識が必要になるかなどの概要をご紹介していきます。
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GXの基本である「脱炭素」に関して、日本では「脱炭素アドバイザー」という資格があります。
国家資格ではありませんが、環境省が2024年8月から認定しているものですので、きちんと名乗れる資格であり、企業の中だけでなく独立したコンサルティング事業もできるようになる可能性があります。
この「脱炭素アドバイザー」資格とはどのようなものか、どのような知識が必要になるかなどの概要をご紹介していきます。
脱炭素化については多くの企業にとっての課題になっているものの、実際に具体的な取り組みを進めることができている企業はそう多くはありません。
内閣府の「令和4年度年次経済財政報告書」によると、特に非上場企業では、ほとんどがなんら取り組みに着手できていない状況にあります。

脱炭素化に向けた取り組み状況
(出所:内閣府「令和4年度年次経済財政報告書」)
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je22/pdf/p030002.pdf p255
その最も大きな理由は「必要なノウハウや人員の不足」です。

脱炭素化の課題
(出所:内閣府「令和4年度年次経済財政報告書」)
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je22/pdf/p030002.pdf p226
そこで人材育成を実施した、実施する予定という企業の割合は比較的多くなっていますが、「投資・運営コスト増への対応が困難である」ことを、取り組みを進める上での課題だと認識する企業も約3割存在しているということです。*1
企業側が苦労している中ではありますが、場当たり的な「それぞれの企業なりの取り組み」では限界があります。
パリ協定という国際的な枠組みの中には詳細な決まりごとも含まれており、どこまでの取り組みをすれば外部から評価されるのか、詳細を把握し企業経営に役立つアドバイスをできる人はそう多くありません。
そこで、世界基準を体系的に把握し、個別の企業に沿ったアドバイスを行える存在として「脱炭素アドバイザー」が存在感を増しています。
脱炭素アドバイザーはもとは民間資格でしたが、一部について2024年8月から環境省の認定資格となっています。環境省が直接試験を実施するわけではありませんが、認定された機関で認定された試験をクリアすれば、それは環境省認定の資格になるというわけです。

脱炭素アドバイザーの環境省による認定
(出所:環境省「脱炭素アドバイザー資格制度認定事業の概要」)
https://www.env.go.jp/content/000247274.pdf p2
その民間資格のひとつに「炭素会計アドバイザー」がありますが、受験者数は第1回の2,021名が第4回には3,128名と1.5倍になっており、関心の高まりがうかがえます。

炭素会計アドバイザーの受験者数と合格者数
(出所:第一生命経済研究所「「脱炭素アドバイザー」を増やし、脱炭素取組を前進させよ
~企業は脱炭素分野の人材育成に積極投資を~」)
https://www.dlri.co.jp/report/ld/333556.html
なお、環境省が示すところの脱炭素アドバイザーには
1)脱炭素アドバイザーベーシック
2)脱炭素アドバイザーアドバンスト
3)脱炭素シニアアドバイザー
の3段階が存在します。
3)の脱炭素シニアアドバイザーについてはまだ詳細な認定資格は設定されていませんが、1)2)については、以下の民間資格を環境省が認定対象としています。
まず脱炭素アドバイザーベーシックとして環境省の認定を受けられるのは、下記の6法人が実施する各試験です(2025年3月14日更新時点)。

「脱炭素アドバイザーベーシック」認定を受けられる試験
(出所:環境省「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」)
https://policies.env.go.jp/policy/decarbonization_advisor/
脱炭素に基づいた経営や関連する金融についての知識が問われる試験が実施されている傾向にあります。
続いてその上位資格となる脱炭素アドバイザーアドバンストの認定を受けられる試験は下の5法人が実施するものです(2025年3月31日更新時点)。

「脱炭素アドバイザーアドバンスト」認定を受けられる試験
(出所:環境省「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」)
https://policies.env.go.jp/policy/decarbonization_advisor/
こちらでは、脱炭素の国内・国際基準について、そして実際の数値算出についての知識が問われる傾向にあると言えるでしょう。
なお、検査機関のひとつでありベーシック、アドバンストともに試験をする日本カーボンニュートラル協会は、必要知識を下のように示しています。

脱炭素アドバイザーべーシック/アドバンストに求める知識
(出所:日本カーボンニュートラル協会「カーボンニュートラル・アドバイザー」)
https://www.jcna.or.jp/cn/
カーボンニュートラルアドバンストの試験では脱炭素に関する全体像はもちろんのこと、GHG(温室効果ガス)の計算方法という、より実践的な知識とノウハウが問われることがわかります。
なお、ベーシックの試験を受けずにアドバンストの試験を受けることも可能です。ただ、下位資格の獲得を条件とする実施機関もあるので注意が必要です。
また試験に向けた教材や過去問題集は、各事業者などが発行しているケースが多くあります。
具体的な知識を身につけた脱炭素アドバイザーの存在は、企業の内外で活きる可能性がありそうです。
個人的にこの資格を取得することで、独立したコンサルティング事業を行うことも可能になっていくでしょうし、企業が従業員に対して資格取得を後押しする制度があれば、それは自社にとってプラスになるだけではなく、資格取得者をきっかけに脱炭素アドバイザリーを別事業として展開できる可能性もあることでしょう。
環境省の認定資格として名刺に刻むことができるメリットは大きいと考えます。
また、自治体による資格取得支援もあります。

脱炭素アドバイザー取得に関する自治体の支援事例
(出所:第一生命経済研究所「「脱炭素アドバイザー」を増やし、脱炭素取組を前進させよ~企業は脱炭素分野の人材育成に積極投資を~」)
https://www.dlri.co.jp/report/ld/333556.html
今後は脱炭素アドバイザーの「シニアアドバイザー」認定も予定されています。
志す社員がいれば、それは企業としての人材への投資であり、自治体の制度などもうまく使って社内に有資格者を確保しておきたいところです。
企業の人材開発の一部として、脱炭素アドバイザーは検討したい資格のひとつになることでしょう。