公共交通におけるAIの活用は、住民の利便性や満足度を向上させるアプローチだけでなく、運行管理や乗客対応などの業務負担を軽減する取り組みも進んでいます。
鉄道業界では、文章や音声などのコンテンツを自動作成できる生成AIを活用した業務支援や顧客サービス向上の取り組みも始まっています。
東京メトロでは、2024年に鉄道会社として初めて、生成AIを搭載したチャットボットをお客様センターに導入しました。
チャットボット機能の高度化によって、自由入力の質問に対しても高い精度で意図を理解し、最適な回答を生成することができます(図3)。*7

図3:チャットボットの機能の高度化
出所)東京地下鉄株式会社 Allganize Japan株式会社「鉄道会社初! 生成 AI 搭載のチャットボットが、お客様のお問合せに対応します!」p.2
https://www.tokyometro.jp/news/images_h/metroNews240618_g19.pdf
これまでのFAQ応答型では対応が難しかった質問にも回答できるため、利用者の利便性向上につながります。
さらに、従来オペレーターが手作業で対応してきたメールでの問い合わせに対しても、生成AIが必要な情報を検索し、回答案を作成することで、一連の業務を自動化することが可能になりました。
生成AIの導入により、年間25万件にものぼる多種多様な問い合わせに、迅速かつ的確に対応できるようになります。
ほかにも、2024年からJR東日本グループは、社員の日常業務を支援する「鉄道版生成AI」の開発に着手しています。
「鉄道版生成AI」は、鉄道に関する法令や規則、業務知識、ノウハウなど鉄道事業における固有の知識を集約し、顧客対応や車両保守、企画立案などの幅広い業務をサポートします(図4)。*8

図4:「鉄道版生成AI」の概要
出所)東日本旅客鉄道株式会社「鉄道固有の知識を学習した「鉄道版生成 AI」を開発します」p.1
https://www.jreast.co.jp/press/2024/20241008_ho02.pdf
鉄道分野の専門知識を学習した生成AIは、設備や車両のメンテナンス作業における注意点や過去の事例を提示できるため、作業の安全性を高めることができます。
また、複数の分野にまたがる業務でも、幅広い専門知識を備えた生成AIが対応できるため、他分野の社員への問い合わせなどの社内調整業務の負荷を軽減することが可能です。
このように生成AIによって業務が効率化されることで、社員は新規事業開発や地域活性化といった、より付加価値の高い業務に専念できるようになります。
さらにJR東日本グループは、2025年に「鉄道版生成AI」を信号通信設備のトラブル発生時に指令員を支援するシステムに適用することを発表しています。
生成AIを活用することで、原因の特定が難しいシステムトラブルが発生しても、最適な手順で迅速に対応できるようになります。
これにより、高度な専門知識を持たない社員が担当した場合でも、ベテラン社員と同じ手順で復旧作業を進めることが可能になります。
新幹線と在来線のシステムに生成AIを導入するのは国内初の試みで、故障から復旧までの時間を従来比で最大50%短縮することを目指しています。*9