米オープンAIの元研究者らが公表したレポート「AI2027」が話題になっています。
2025年半ばから2030年代までのAIの発展と世界の変化を予測したもので、随所に衝撃的なシナリオが挟まれています。
今回はこのレポートを紹介し、同時にAIの現在地やその行方を探ってみたいと思います。
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米オープンAIの元研究者らが公表したレポート「AI2027」が話題になっています。
2025年半ばから2030年代までのAIの発展と世界の変化を予測したもので、随所に衝撃的なシナリオが挟まれています。
今回はこのレポートを紹介し、同時にAIの現在地やその行方を探ってみたいと思います。
「AI2027」ではAI技術がどこまで進むかということだけでなく、世界をどのように変えてしまうのかについても具体的な出来事を示しています。
物語はアメリカの「オープンブレーン」、中国の「ディープセント」という架空の企業と、架空のAIモデルを軸に進んでいきます。*1
まず2025年のなかば、すでに私たちはこの地点を通り過ぎましたが、AIが自律的に作業をこなす「AIエージェント」が普及期に入り、そして2025年後半には「オープンブレーン」は博士号レベルの知識を持つモデル「Agent-1」の開発に成功する、としています。
違和感のないシナリオです。
現実世界でもOpenAIが今年8月に「GPT-5」を発表しました。CEOのサム・アルトマン氏は「初めて博士号レベルの正真正銘の専門家に何でも質問できるように感じられるようになった」とアピールしています。*2
そしてシナリオでは、同時に中国では低コストのAIモデルDeepSeekをモチーフにした企業「ディープセント」が実力をつけはじめるとしています。これも現在、中国の新興企業が資金調達を拡大しつつあることを見れば現実的な話です。*3
そして2026年半ばには、中国共産党が「AGI(汎用人工知能)」の到来を意識し、研究者を集め、同時にオープンブレーンの技術を盗む計画を実行しはじめると綴られています。
さてここで一度時計を止めて、中国共産党が意識すると語られている「AGI(汎用人工知能)」とは何かを軽くご紹介します。
AGI(=Artificial General Intelligence)とは、一般的な人間のような知能をもったAIのことです。*4
いま世界で大規模言語モデル(LLM)を利用した様々な生成AIが開発されていますが、まだまだ弱点も多く、完全に人間と同等とは言えません。LLMの研究開発も今後進んでいくことでしょうが、AGIが少し違うのは、その先に「ASI(人工超知能)」が見据えられていることです。
ASI(=Artificial Superintelligence)とは人間を超える知的能力を持ち、人間が行うあらゆる知的活動を超え、科学研究や技術開発、医療診断、経済予測など多様な分野で卓越した能力を発揮するものと期待されています。
同時に自己学習と自己進化で知識と能力を拡張していくと考えられています。
現在は「人間がAIを教育し、人間がAIを使って」社会や経済などの問題について解決策を見出す時代ですが、ASIが現実のものとなれば、人間は「AIを先生として問題解決策を教わる」ようになる、とも言えるでしょう。
では、シナリオをさらに進めていきましょう。
2026年後半にはプログラマーなどの仕事を奪い始め、ワシントンでは、1万人規模でAI普及に反対するデモが行われるといいます。
そして2027年3月、オープンブレーン社はAIモデル「Agent-2」が合成したデータを学習元にした「Agent-3」を開発するとされています。ついに「AIがAIから学ぶ」時代の到来です。
そして5月には、AGIの実現性を認識したアメリカ政府が安全保障のためにアメリカ国籍以外の従業員を左遷・解雇、7月にはオープンブレーンがAGIの達成を宣言します。翌8月にはAIが新しいAIの開発を主導していることが明らかになるとしています。
その後9月にはオープンブレーンが「Agent-4」を開発、人間の50倍の知能を持つようになるといいます。しかし翌10月に「Agent-4」の存在がリークされて世間の知るところになり、世論は猛反発、国際問題にも発展するというシナリオです。
ここまでが「AI2027」がタイトル通りに示す2027年までのシナリオです。そこから2030年代に向けてはマルチエンディングが用意されています。AI開発競争が加速するか減速するかの2種類です。*5*6
ひとつはAI開発競争がさらに加速する場合です。
2027年11月には「Agent-4」が自らを改良したAIモデル「Agent-5」を開発し、社内政治も得意とする超人的な能力で「Agent-5」は政府内で存在感を増していくといいます。
そして、
・2028年:「Agent-5」による政策実行で経済は脅威的に成長、AIはアメリカ政府の意思決定に干渉するようになる。中国でもAIが政策に影響力を持つようになる。
・2029年:AIが米中の軍拡競争を仲裁し兵器の製造を止める。同時に両国はAIの平和利用で合意し、ともにAIモデル「Consensus-1」への置き換えを進める。
平和なシナリオに見えます。しかしその先には驚くべき展開が待っています。
人間が、自分たちは経済的に不要だということに気づいてしまうのです。
そして2030年代、AIもまた人間は排除すべきという判断を下し、地球はAIの楽園になると綴られています。
そしてもうひとつは、AI開発競争が減速する場合です。
2027年11月、「Agent-5」の存在によって世論がAI開発に猛反発を示したことで、オープンブレーンは暴走しにくいAI「Safer-1」を開発するといいます。
その後に続くシナリオは以下のようなものです。
・2027年12月:オープンブレインが開発を減速したことで、中国ディープセントがオープンブレーン並みのAIを優位に運用。
・2028年4月:暴走リスクの低いAIモデルは「Safer-4」までアップグレードされ、アインシュタインをも上回る知能を持つようになる。
・2028年6月:米中首脳会談が開催されるが、米国側は「Safer-4」のアドバイス、中国側はディープセントが開発した「DeepCent-2」のアドバイスを受けながら向き合うため、実質はAI同士の会談となる。翌7月には「DeepCent-2」が政府の知らないところで「Safer-4」に直接取引を持ちかけ、両者はシビアに話し合う。
・2029年:量子コンピューターなどの発展により2029年には途上国の貧困も解消される。
・2030年代:中国各地で民主化運動が起きるが、政府による鎮圧の試みは「DeepCent-2」に妨害され運動はクーデターに発展。世界で同様の現象が起きる。
そして最終的に世界がどうなるかというと、2030年代には各国は世界政府に加盟、人類は地球以外の惑星に移住するようになるとしています。
AI開発と人間が別の惑星に移住することとの因果関係はわかりませんが、現実世界を見ると米NASAは2030年までに月面で原子炉を稼働させる計画を立てています。*7
現在NASA主導で進められている「アルテミス計画」も、2030年代に火星への有人探査を実現することを目指すものです。*8
レポートがアルテミス計画を意識して書かれたものか、あるいは偶然の一致かは興味深いものです。
ここまで、駆け足ではありますが「AI2027」の概要をご紹介してきました。
2種類のエンディングが綴られていますが、今後AIの開発競争が加速しても減速しても「人間が排除される、不要になる」という方向性が示されています。
実際に人間を超える人工知能が実現するかはわかりません。また筆者としては、AIが人間を超えたとしたら、本当に超えたのかどうかを誰が判断するのか不思議に感じています。人間が作ったベンチマークでは、人間を超えたものを測れるとは思わないからです。
ただ、かねてから懸念されている「AIの暴走」は現実味を帯びていそうです。
AIが人間不要論に至る前に歯止めをかけるのかどうか。今のところは人間が決定権を握っていますが、それが放棄されたり奪われたりしたとき、AI開発やAIの存在そのものが完全に無意味なものになってしまうことは間違いありません。