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GX×地方創生をめざす「地域GX」 自治体が取り組むGXの事例を紹介

クリーンエネルギーへの転換と経済成長の両立を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みは、政府や大企業が主導する形で進められてきました。
しかし近年では、GXの取り組みは、自治体や中小企業、住民・地域コミュニティまで広がりつつあります。

2025年4月、全国の地方自治体のGX推進をサポートする「自治体GXセンター」が開設されました。
このセンターは、多くの自治体がGX推進で直面する課題を解決するために、民間企業が専門的な人材を派遣する取り組みです。
さらに、政府は地方自治体のGXを促進させるため、「GX戦略地域」制度創設の検討も開始しました。

この記事では、地方自治体がGXに取り組む意義や政府の動向、そして地域GXにおける先進的な取り組み事例を紹介します。

なぜ地域GXが必要なのか

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料に依存する社会をクリーンエネルギー中心に転換し、産業構造の仕組みを変えていく取り組みです。
GXは、エネルギーの安定供給、経済成長、温室効果ガスの削減を同時に実現することを目指しています。*1

GXの背景となるカーボンニュートラルを実現するためには、地域脱炭素(地域GX)を進めていくことが重要であると考えられています。
2023年7月に閣議決定された「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」でも、脱炭素先行地域を通じたGXの社会実装や、地域と共生する形での再生可能エネルギー導入が打ち出されています。*2
このGX推進戦略では、社会全体のGXを推進していくために、企業と住民が一体となって、地域・くらしの脱炭素化を実現することを掲げています。
その一環として、2025年度までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を選定し、政府が地域におけるGXの社会実装を後押しする計画となっています。*3

全国各地の地域金融機関や中核企業、地方自治体を巻き込んだ取り組みを進め、2050年を待たずに地域の強みを活かした脱炭素社会を構築することを目指しています(図1)。*4


図1:地域脱炭素のタイムライン
出所)環境省「地域脱炭素とは」
https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/chiiki-datsutanso/

地域脱炭素は、自治体・地域企業・市民が主役となり、地域資源によって経済を循環させつつ、防災や暮らしの質の向上といった地域の課題を解決し、地方創生につなげる取り組みです(図2)。*2


図2:地域脱炭素のタイムライン
出所)一般財団法人 地域活性化センター「令和5年度 地域活性化ブック」p.17
https://www.jcrd.jp/publications/636594b102183b0bdb3121726e2bfd6ab5027a79.pdf

このように、自治体が進めるGXの取り組みは、地方創生とも深く結びついています。
2025年6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」でも、政策の5本柱のひとつとして、「新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術の徹底活用」が掲げられ、そのなかにはGXの推進も位置付けられています。

具体的な政策としては、GX産業立地の推進するために、大規模なデータセンターの適地やGXに不可欠な企業等を呼び込むための地域を5か所以上創出すること、2032年度までの10年間でGX分野で150兆円の官民投資をおこなうことが目標とされています。*5

地域GXを支援する取り組みとは

地域GXを推進するためには、現状としてさまざまな課題があります。
地方自治体のGXに関する実態調査(エネがえる運営事務局調べ[1.1])によると、地方自治体の85.2%がGXの重要性を意識していると回答しているにも関わらず、実際の取り組みについては37.1%の自治体が「できていない」と回答しています。*6

GX実現に向けて具体的な行動に移せていない理由として、多くの自治体が「GX関連の技術や専門知識が不足しているから」「自治体と企業・金融機関をはじめとする関係機関との連携が進まないから」と回答しています(図3)。*6


図3:GX実現に向けて具体的な取り組みができていない理由
出所)エネがえる「【地方自治体の地域脱炭素への取り組みの現状課題が明らかに】85.2%が「GXの取り組み」の重要性を実感。一方、37.1%が「具体的な行動」に移せていない実態、その原因とは?」
https://www.enegaeru.com/surveyrelease1205

このような背景もあり、地方自治体を支援するため、総務省ではGXや脱炭素を専門とした「GXアドバイザー」を自治体に派遣しています。
この事業では、派遣にかかる費用は地方公共団体金融機構が負担するため、自治体が十分な予算を確保できない場合でも利用可能です。*7

自治体向けのGX支援は、民間企業にも広がっています。
2025年4月には、株式会社メンバーズが全国の自治体のGX推進をサポートする「自治体GXセンター」を開設しました。
「自治体GXセンター」は、内閣府や総務省の制度に基づき専門人材を派遣する組織で、GXリテラシーとデジタルスキルを兼ね備えたGXコンサルタントが自治体に常駐し、プロジェクトの企画から実行までを一貫して支援します。*8

さらに、2025年8月には、政府がデータセンターや脱炭素産業を一つの地域に集約する「GX戦略地域」と呼ばれる新たな制度を創設する方針を決定しました。
この制度では、GX産業立地を以下の3つの類型に分類しています(図4)。*9


図4:「GX産業立地」の類型
出所)内閣府「GXをめぐる情勢と今後の取組について」p.12
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai15/siryou1.pdf

「GX戦略地域」制度の創設にあたり、政府はすでに自治体等からの提案募集を開始しており、全都道府県向けの説明会も開催しています。

多様な挑戦がみられる地域GXの事例

世界をリードするGX拠点を目指す山口県

⽯油、化学、セメント、製紙、鉄鋼などが集積する特色のあるコンビナートが存在する山口県では、企業と自治体が一体となってGX産業構造の実現を目指しています。

各コンビナートのある3つの地域で、グローバル展開を見据えたGX技術の実証と事業化が進められています(図5)。*10


図5:山口県の各コンビナート地域でのGX技術の実証と事業化
出所)地方創生2.0「特区制度と連携したGX産業⽴地政策の推進(案)」p.4
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/dai66/shiryou5.pdf 

取り組みの一つとして、全国有数のセメント産地である宇部・山陽小野田エリアでは、セメントのグリーン化に向けた実証を実施しています。
この取り組みでは、石油精製や化石燃料由来のアンモニアの製造を段階的に停止し、クリーンアンモニアの供給拠点の構築を目指しています。

すべての事業に環境配慮を取り入れる「いせさきGX」

群馬県伊勢崎市では、市独自のGXを「いせさきGX」と名付け、市のすべての施策や事業に環境配慮を取り入れる方針を表明しています。
「いせさきGX」は社会や個人のGXへの取り組みをより加速させることを目的とし、生活に根付いた取り組みを通じて、市民とともに持続可能なまちづくりを目指しています。

具体的な取り組みとしては、家庭用脱炭素設備に対する補助金制度、公用車への次世代自動車導入、エネルギーの地産地消の推進などがあります。*11

カーボンニュートラルを実現を目指したエネルギーの地産地消に関しては、民間のエネルギー関連企業と連携して取り組みを進めています。
例えば、市の清掃リサイクルセンターの熱を利用して発電した電気を地元ガス会社に売電し、伊勢崎市の公共施設に供給することで、地域の再生可能エネルギーを有効活用しながら持続可能なエネルギー循環を実現しています(図6)。*12


図6:伊勢崎市におけるエネルギー地産地消のイメージ
出所)伊勢崎市「脱炭素化の実現に向けたエネルギーの地産地消に係る基本合意書の締結」
https://www.city.isesaki.lg.jp/soshiki/kankyobu/gxsuishin/isesakigxsuishin/renkei/21294.html

GXとDXを両輪とした宮崎県延岡市のまちづくり

「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」に選定されている宮崎県延岡市では、社会課題の解決と経済成長の両立を目指し、脱炭素を推進するGXとスマートシティ政策を担うDXを両輪としたまちづくりに取り組んでいます。*13

その取り組みの一つとして、延岡市の地域通貨「のべおかCOIN」があります。
「のべおかCOIN」は、健康に寄与する行動や脱炭素につながるエコ行動に対して、地域の加盟店やイベントで使用できるポイントを付与し、市民の行動変容を促すキャッシュレスプラットフォームです(図7)。*14


図7:地域ポイント活用サービス事業「のべおかCOIN」
出所)のべおかSDGsポータルサイト「DX・ひと・GXの三側面をつなぐ総合的取り組み のべおかCOIN」
https://sdgs.city.nobeoka.miyazaki.jp/nobeoka/img/coin.pdf

「のべおかCOIN」は延岡市民の2.8人に1人が利用するほど普及が進んでおり、地域に根ざしたDX・GX推進の先行事例といえます。
他にも「のべおか脱炭素アプリ」もリリースし、脱炭素につながるエコ活動を見える化することで、市民が気軽に参加でき、継続しやすい仕組みづくりを進めています。*15

おわりに

国が主導して推進しているGXを、私たちの暮らしにより身近な形で実行していく役割を担っているのが地方自治体です
地方自治体によるGXの強みは、地域が抱える社会課題や自治体の規模、地域産業の特性に応じて、柔軟にエネルギー政策や脱炭素施策を実行できる点にあります。

2025年には、「自治体GXセンター」の開設や「GX戦略地域」制度の検討開始などが相次ぎ、政府や民間企業による地域GX推進への支援が本格化しつつあります。
こうした取り組みは、地域社会に根ざしたGXの実現を後押しする大きな力となるでしょう。

参考文献

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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