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「つくって売る」過程だけが環境への負荷ではない 温室効果ガス排出の「Scope1」から「Scope3」とは?

生産活動の中でどのくらい温室効果ガス(以下GHG)を排出しているか把握することが現代の企業には求められています。東証プライム上場企業には、「GHGプロトコル」に沿ったGHG排出量を算定することが求められています。

製造業の場合、それは主に「工場でどれくらい排出しているか」が注目されがちですが、企業活動の温室効果ガス排出要因は工場だけではありません。

工場を動かし続けるには、人が電車や自動車で出勤してくる必要性があります。その通勤過程でもCO2などを発生させています。
あるいは、製品が無事に廃棄されるまでがメーカーの環境に対する責任とみなされます。家電は使われることでGHGを排出し、さらに廃棄にはさまざまな環境負荷がかかるからです。

こうした生産現場の上流、下流の段階で発生する温室効果ガスをどう見積もれば良いのか。詳細と、近年の動きをご紹介します。

企業活動のGHG排出量の分類とは

企業活動における温室効果ガス(GHG)排出量は、以下のように分類されています。
そしてこの分類は国際基準で下の3つに分けられています。

GHG排出量の分類
(出所:環境省資料)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_gaiyou_20230301.pdf

工場でものをつくる時に燃やした自前の燃料から発生するGHGは図の中央「Scope1」に分類されます。最も直接的な排出です。
次に、他社から電力の供給を受けている場合、その電気の発電・送電・使用の段階でそれぞれGHGが発生します。こちらは「Scope2」に分類されます。

しかし「ものづくり」を広く捉えた時、GHG排出量はそれだけにとどまりません。

上の図の通り、原材料の製造、原材料の輸送や配送、従業員の通勤などでGHGは発生します。また、製品が売れたあとも、それを使うことで発生するGHG、廃棄する段階で発生するGHGと、企業活動にはかなり多数のGHG発生要素が伴います。

これらScope1、Scope2に含まれないGHG発生量は「Scope3」と呼ばれますが、このScope3の計算が企業を悩ませています。

Scope3には漠然とした部分も

というのは、Scope3には15ものカテゴリがあるからです。

GHGプロトコル「Scope3」のカテゴリ
(出所:環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf

「廃棄物の自社以外での搬送」や「従業員の出張」まで、非常に細かい項目が設定されています。計算できそうなものと、原材料の調達やパッケージングなど自社の管理の域を超えている部分などもあり、サプライチェーン全体での情報共有が必要になります。

従業員が業務で使う紙、消費されるコーヒーまでもが対象です。
掴みにくい数字であることでしょう。

実際、このScope3算出については批判もあります。オックスフォード大学のKathik Ramanna教授らはこのように述べています。

“スコープ3排出量はGHGの報告における決定的な欠陥である。
(中略)
たとえば、スコープ1の排出量の低い企業との間で製品を売買し、さらにそのサプライヤーや企業と協力すれば、関連するバリューチェーン全体でGHG排出量を削減できるかもしれない。ところが、多層的なバリューチェーン全体にわたる複数のサプライヤーと顧客からの排出量を追跡することは難しいため、一つの企業がスコープ3排出量を正しく推定することは事実上不可能なのだ。”
<引用:「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年4月号 p16>

確かにそうでしょう。

Scope3算出の意味

しかし非常に面倒ともとられるScope3の算出ですが、これをやることにはメリットがあります。

特にイメージの問題は大きいことでしょう。
GHG排出量に各社が頭を悩ませる中、きちんとScope3までを算出している企業と取引するのは楽なことです。
また、GHG排出量を各Scopeまで算出し公表している企業は、官公庁からの発注を受けやすくなるという可能性があります。どこだって、GHG排出量を把握できる企業と契約したくなるものです。

ちなみに、Scope3の領域について見れば、例えば生産品の破棄について、ヨーロッパと日本では大きく異なる制度が導入されています。
ヨーロッパでは2003年に発効した「WEEE(=Waste Electrical and Electronic Equipment)司令」により、生産者は最終ユーザーから使用済み製品を無償で引き取りし、定められた回収、処理・リサイクル目標を達成するという物理的責任があります。*1

一方、日本の場合は生産者に引取義務と再商品化の実施義務という物理的責任があり、消費者がリサイクル料金を排出時に支払う仕組みになっています。

こうした壁も超えていく先進性があれば、注目される企業になることでしょう。

また、GHG排出プロトコルを公表している企業のひとつに住友林業がありますが、企業活動においてScope3が大きな割合を占めていることがわかります。

企業活動に伴う温室効果ガス(住友林業の場合)
(出所:「気候変動への対応 事業活動に伴う温室効果ガス排出」)
https://sfc.jp/information/sustainability/environment/climate-change/ghg-reduction.html

よってScope3の算出と公開、推移は、例えば投資家などからすれば非常に関心の高いものになるでしょう。

Scope3をどう測る?

そしてScope3を算出するためにいま、各種AIサービスが活躍しています。

例えばIBMは、AIでScope3のGHG排出量計算をサポートするサービス「IBM Envizi」をリリースしています。

IBM EnviziでのScopeごとGHG排出量分析
(出所:IBM「IBM Envizi:温室効果ガス排出量スコープ3 算定・報告」)
https://www.ibm.com/jp-ja/products/envizi/scope-3-ghg-accounting-reporting

Scope1から3のそれぞれの排出量、またScope3の中でもどのカテゴリで排出量が増えているのかを分析し、レポートを作成してくれるという機能もあります。*2

また国内企業では「アスエネ」がAIを用いたScope3算出やサプライチェーンのESG評価などを可能にしたサービスをリリースしています。

アスエネのScopeごと排出量の表示例
(出所:アスエネ株式会社「ASUENE」)
https://asuene.com/adlp01-form

こちらはデータ収集を助けてくれるAIツールです。
CO2排出量管理、環境パフォーマンス指標管理(水資源、廃棄物、指定物質 等)、ESGデータ全般までデータの収集から開示までの工程を7割削減できるといいます。*3

GHGの排出は、なかなか目に見えるものではなく、詳細を掴み数値化するのは難しいものです。しかしここに生成AIを用いることにより、様々なシミュレーションも可能になっていくでしょう。

こうしたAIの使い手が外部との有利な取引を進め、そうでない企業と差を開いていくのは遠い未来の話ではなさそうです。

注釈

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。
趣味はサックス演奏と野球観戦。
X(旧Twitter):清水 沙矢香
FaceBook:清水 沙矢香

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