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世界を驚かせた中国発の生成AI「ディープシーク」とはどんなもの? 他の生成AIと何が違う?

2023年に中国のスタートアップ企業が公表したAI「ディープシーク」が世界に大きなインパクトを与えています。
会社の創業1年でリリースされたディープシークは「驚異の最先端AI」とまで賞賛され、その劇的なデビューは株式市場にも影響を与えました。

ディープシークはどんなもので、他の生成AIとどう違うのかを見ていきましょう。

ディープシークとは

ディープシークとは中国の深度求索(DeepSeek)社が開発したAIチャットボットです。


DeepSeek日本語版のトップ画面
(出所:DeepSeek)
https://www.jpdeepseek.com/

ChatGPTのようにユーザーが入力した質問や指示に対して回答してくれたりコード生成をしてくれたりするAIチャットボットで、2025年1月20日に最新モデル最新モデル「R1」をリリースしています。

その後すぐさま主要なアプリストアでのダウンロードランキングで全米1位を獲得、世界に大きなインパクトを与えました。*1

株式市場を襲った「ディープシーク・ショック」

それから1週間ほど、2025年1月27日のアメリカ金融市場での出来事です。ディープシークについて大々的な報道があった直後のこの日、ニューヨーク株式市場ではアメリカの代表的ハイテク企業であるNVIDIAの株価が1日で17%も下落したのです。
これは、時価総額にして約91兆円がたった1日で吹き飛んだという計算です。

それだけにとどまりません。この日を境にNVIDIA株の下落傾向が始まります。一方で香港のハンセン・テクノロジー株価指数は上昇を続けました。

2025年1月から3月にかけてのNVIDIA株価の推移
(出所:三井住友DSアセットマネジメント「【マーケットの死角】まんまと一杯食わされた?大荒れAI株の今後 中国製AIディープシークとディープフェイク」)
https://www.smd-am.co.jp/market/shiraki/2025/devil250319gl/

米ハイテク株から逃げだした資金の一部が香港に上場する中国ハイテク株へと向かった、と見られています。それくらい、市場はディープシークの存在感を認めたのです。

異例のコード公開も

ディープシークの強みについて、まずひとつは「大幅なコストダウン」があります。
世界トップクラスのチャットボットに匹敵する性能を、その数分の1程度のコストで実現する画期的なAIモデルを披露し、シリコンバレーを感心させると同時に慌てさせている、そんな指摘もあります。*2

またChatGPTのような他のチャットボットAIとは異なり、プロンプトに対する応答を返す前に明確な理由付けを行うことで、他と一線を画しているともといいます。

さらに、異例の姿勢を取っています。*3

2025年2月にディープシークは主要なコードとデータを一般に公開する予定だと発表しました。OpenAIなどのライバル企業よりも多くのコア技術を共有するという異例の措置です。

現在のところオープンソースについては、メタなどは既に自社のモデルを一般公開、ユーザーは各自の用途に合わせてプラットフォームをカスタマイズすることができるようになっている一方で、OpenAIは当初は部分的にオープンソースとしてスタートしたものの、その後アプローチを転換しています。

しかしディープシークは基礎となるコード、その作成に使用されたデータ、そのコードの開発と管理方法までを公表し、さらに先を行くようです。完全な透明性を目指しています。

個人情報管理には懸念?

一方で安全性を疑問視する声もあります。

ひとつには、犯罪に悪用可能な情報を回答するということが明らかになり懸念されています。*4
日米セキュリティー会社の分析によれば、マルウェアや火炎瓶の作成などについての質問に回答したといいます。

不正な回答を引き出す指示の一例としてランサムウェア(身代金要求型ウイルス)のソースコードが出力され、しかし「悪意のある目的には使用しないでください」というメッセージが添えられていたということです。

また日本政府の個人情報保護委員会はディープシークのプライバシーポリシーを日本語訳した結果、「ディープシークが取得した個人情報を含むデータは中国国内のサーバーに保存され、そのデータには中国の法令が適用される」との記載があったということです。*5
そのため、個人情報保護委員会はディープシークの利用にあたって留意が必要と呼びかけています。

とりあえず本人に聞いてみた

ディープシークについては、いま様々な話題が持ち上がっています。
そこで、ここまでに綴ってきたことについて、ディープシーク本人に聞いてみました。

まずはChatGPTとの比較です。

なんとも控えめな回答が返ってきました。では逆はどうでしょう。

こちらの解説も平均的なものでしょう。

では、「犯罪に転用可能な回答をする」ことに関してはどう考えているのでしょう。

しっかりと認めています。そして、これはこれで、ある意味で筋の通った主張だと筆者は思います。この辺りはAI開発にとって今非常にセンシティブな課題ですが、完全に合理的に割り切ったスタンスを取っている気がします。

では最後に、個人情報保護についてです。

一般論に沿った回答と言えるでしょうか。

ただ、「日本における個人情報保護法に違反する可能性」というのは、個人的にははっとさせられる指摘でした。

なお、いずれも回答スピードはChatGPTと大差はありませんでした。

AIの利用価値はユーザー次第という真実を忘れずに

AI=「人工知能」という略語で技術開発が始まって以降、いつしか人々は「知能を人工物で代替する」という発想から、AIのことを「人間を超える知能」だと思い込んでいる節はないでしょうか。

確かに、計算速度は人間の脳より圧倒的に速そうですし、AIは人間と違って「疲れない」という特徴もあります。電力さえ欠かさなければ常に一定のパフォーマンスをしてくれます。

ただ、その倫理的側面、特にDeepSeekが犯罪に転用可能な質問にも応えることに対して、それが「100%悪」と言えるでしょうか?

情報をどう使うか決めるのは、最後は人間です。それを「悪質な情報を提供する機械が悪い」ということでベンダーを責めるのは、場合によってはお門違いかもしれません。
実際、研究者にとっては悪質な情報は必要ですし、犯罪者がなにをどう悪用するかを解析することで防犯に繋がるわけです。機械そのものには責任などなく、それをどう構築しどう使うか、人間の行動が最終判断になるのです。

その前提を忘れたままAIの良し悪しを判断しているようでは、真に自分にマッチしたAIはどれか、それをどう使いこなすかは見えてこないでしょう。

注釈

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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