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AIのトレンドはエッジ?私たちの生活を変えるかもしれないエッジAIとは

エッジAIとは、スマートフォンやコンピュータなどのデバイスに搭載されるAIのことです。
「端」や「縁(ふち)」などと訳されるエッジは、インターネットの端(エッジ)=デバイスという意味で使われています。

現状のAI技術は、ユーザーがインターネットにアクセスして利用するクラウドコンピューティングを利用したAIが主流です。
例えば、オンラインで手軽に利用できる「ChatGPT」は、膨大なデータをクラウド上で処理して、回答となる結果をデバイスに返す仕組みになっています。

クラウドコンピューティングがIT市場のメインストリームとなりつつある現代において、なぜローカルで作動するエッジAIに注目が集まっているのでしょうか。
この記事では、エッジAIに関する基本知識と実際の事例について紹介します。

エッジAIとはどんな技術?

社会が注目するエッジコンピューティング

まずは、エッジAIの「エッジ」のもととなった言葉である、エッジコンピューティングについて紹介します。

エッジコンピューティングとは、ネットワークの端に位置しているデバイスでデータ処理をする技術です。膨大な量のデータを処理するクラウドコンピューティングの負荷を分散し、高い応答性を実現することができます。
クラウドでの処理を必要最低限に限定し、IoTデバイスやその周辺機器などでデータ加工や分析などの処理をおこないます。(図1)*1


図1:エッジコンピューティングとは
出所)J-Net21「IoTに関連したエッジコンピューティングのメリットは何ですか。」
https://j-net21.smrj.go.jp/qa/productivity/Q1312.html

エッジコンピューティングでは、データの発生現場で処理をおこなうことで、応答時間が短縮され、リアルタイムでの高速処理が可能です。
インターネット上のデータのやり取りを最小限にすることで、データ通信量を低減でき、データ漏洩などのセキュリティリスクも最小化することができます。*1

エッジコンピューティングの市場規模は世界的に成長していくことが見込まれており、2027年には3,500億ドルまで拡大すると予測されています。(図2)*2

図2:世界のエッジコンピューティング市場規模(支出額)の推移及び予測
出所)総務省「データセンター市場及びクラウドサービス市場の動向」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd218300.html

近年では、ITシステムの構築はクラウドコンピューティングが主流となっていますが、クラウドコンピューティングにはないメリットを持つ、エッジコンピューティングにも注目が集まっています。

エッジAIとは?

エッジAIは、インターネットの端に位置するデバイスだけで、AIの動作を完結することができる技術です。
つまり、クラウドとのやり取りを最小限に抑えたエッジコンピューティングでAI処理をおこうものです。

エッジAIの「エッジ」にはユーザーの周辺にあるさまざまな機器が含まれ、どの機器を指すのか明確な決まりはありません。
スマートフォンやPCだけでなく、自動車や工場の製造装置、街中に設置される防犯カメラなどもエッジに含まれます。
エッジAIもエッジコンピューティングと同様に、リアルタイム処理が可能であること、データ通信量が削減できること、セキュリティが強化できるなどのメリットがあります。

そのため、エッジAIはプライバシーを守る必要のある医療・ヘルスケアの分野や、機密情報を扱う工場のロボット、高速応答が必要となる自動運転などの分野で活用できることが期待されています*3

国内のエッジAIの分野の製品・サービス市場に関しても、エッジコンピューティングと同様に成長が見込まれており、2027年度には370億円規模に達することが予測されています。(図3)*4

図3:国内のエッジAIコンピューティングの市場規模の推移及び予測
出所)総務省「令和6年度版情報通信白書 データ集」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/datashu.html

エッジAIの国内市場規模は年率27.4%増で推移し、特にエッジAIコンピュータやエッジAIカメラの分野の成長が見込まれています。

エッジAIはAIのさらなる発展を後押しする?

最近では、AIが生活に身近なものとなっており、活用される分野も広がりつつあります。
特に既存のデータを大量に学習して、文章やイラストなどのさまざまなコンテンツを生み出す生成AIの登場は、AIの可能性を大きく広げるとともに、社会に大きな衝撃を与えました。
2022年にリリースされた対話型AI「ChatGPT」は、オンラインサービスとしては異例のスピードでユーザー数を増やしています。*5

現在のAI技術では、AIの学習と推論の両方をクラウドでおこなうことが前提とされています。
そのため、幅広い分野でAIが本格的に普及していくと、データ量の急増やエネルギー消費の増大が社会問題になると考えられています。
そこで課題解決策の一つとして期待されているのが、クラウドでの処理を最小限に抑え、インターネットに常時接続する必要のないエッジAIです。*6

「エッジ」はインターネット上にある「クラウド」に対比させた言葉でもあり、AI処理をする場所が異なるクラウドAIとエッジAIには、それぞれに異なるメリットがあります。(図4)*3

図4:クラウドAIとエッジAIの違い
出所)産総研「エッジAIとは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20250122.html

大規模なデータ処理が可能で、多数のユーザーの作業に同時に対応できるクラウドAIに対して、エッジAIはある程度小規模なシステムにおける特定ユーザーの特定作業を対象としています。

さまざまな分野で活躍するエッジAI

エッジAIは、さまざまなデバイスに搭載できることから、その活用分野も多岐に渡ります。

設備の状態をチェックするウェアラブル・システム

東芝情報システム株式会社は、これまで作業員が目視で行っていたメーターの読み取りを自動化できる、エッジAIを搭載したメガネ型ウェアラブル・システムを開発しました。

このウェアラブル・システムでは、AI物体検出技術によってメータの場所を判定し、メータ値の読み取りと記録を自動でおこないます。(図5)*7

図5:メータ読み取りウェアラブル・システム
出所)東芝情報システム株式会社「エッジAI技術への取り組み事例」
https://www.tjsys.co.jp/focuson/edge-ai-approach/edge-ai-case.htm

エッジAIの活用によって、これまで作業に充てていた時間を削減できるうえに、メーターの読み取りミスや記載ミスなどのヒューマンエラーも防止することもできます。
通信遅延が発生するクラウドAIでは、ユーザーの操作性を損なう恐れがあり、リアルタイム性に優れたエッジAIに適した作業です。

未病の早期発見を目指したエッジAI型センサパッチ

北海道大学や東京大学、順天堂大学などの研究グループは、心電図や皮膚温度、呼吸などのバイタル情報を常時連続計測が可能なエッジAI型センサパッチの開発に成功しています。

このエッジAI型センサパッチは絆創膏のような形状で柔らかく、皮膚表面から取得できるバイタル情報をリアルタイムでアルゴリズム解析することが可能です。(図6)*8

図6:開発したマルチモーダルセンサパッチとその解析システムの写真とイメージ図
出所)東京大学大学院情報理工工学研究科「エッジ AI 型センサパッチの開発にはじめて成功」p.1
https://www.i.u-tokyo.ac.jp/news/files/IST-Pressrelease_Nakajima_20241031.pdf

すでに普及している腕時計型のウェアラブルデバイスよりも密着性が高いため、皮膚表面から安定して高精度なバイタル情報を取得することができます。
無意識のうちにデータを収集できることから、遠隔医療・遠隔見守りなどにも展開可能で、孤独死の減少や、未病の早期発見につながることが期待されています。*8

なお、未病とは、「健康」と「病気」は明確に区別できるものではなく、心身の状態は健康と病気の間を連続的に変化するものとして捉え、そのすべての変化の過程を表す概念です。*9
エッジAI型センサパッチによって、病気の自覚症状がない段階に、体からでている異常信号を早期検出することで、病気の早期発見を目指します。*8

エッジAIの技術を活用した放牧牛管理

東京科学大学や信州大学、ソニーグループなどが参加する共同プロジェクトチームでは、畜産農家の放牧牛管理を効率化する放牧牛IoTモニタリングシステム「PETER(ピーター)」の開発に取り組んでいます。

このモニタリングシステムでは、牛が装着する首輪デバイスにエッジAIの技術が活用されています。
エッジAIによって、「草を食べる」「水を飲む」「歩く」などの牛の位置データや行動データ、環境データを解析することができます。(図7)*10

図7:共同プロジェクトチームが目指す将来の畜産イメージ
出所)PRTIMES「放牧牛を担保とする動産担保融資におけるAIモニタリングシステム「PETER」の有効性検証を開始」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000108.000043138.html

エッジAIの解析結果をクラウドに集約することで、個体ごとの状況把握が可能になるため、放牧牛の畜産管理を効率化することができます。
使用されるエッジデバイスは、動物のストレスや病気を減らすことを基本概念としたアニマルウェルフェアにも配慮されています。*10

エッジAIによってAIがまずます身近な存在に

エッジAIはすでに実用化が始まっており、2024年に発売されたスマートフォンやPCには、画像や文書などの各種処理をおこなうAIを実行する半導体が搭載されています。*3

高速処理と高い安全性を誇るエッジAIですが、現状では大規模で高度な処理に関してはクラウドAIの性能には及びません。
しかし、AIの半導体技術は目覚ましく発展していることから、エッジAIの性能がクラウドAIに近づく日もそう遠くはないのかもしれません。

エッジAIは、さまざまな装置に搭載できるところも利点の一つです。
幅広い分野で活躍が期待されているエッジAIは、私たちの生活や社会を大きく変える可能性を秘めています。

参考文献

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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