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空飛ぶクルマ国内初飛行達成!「空の移動革命」は起きるのか

2025年開催の大阪・関西万博の目玉の一つとして注目されているのが、電動で垂直離着陸する次世代モビリティ、空飛ぶクルマです。
大阪・関西万博の展示では、会場内ポートと会場外ポートをつなぐ2地点間でのデモ飛行が予定されています。
空飛ぶクルマの実用化に向けた動きは近年加速しており、2024年には、トヨタと米新興企業「ジョビー・アビエーション」が、空飛ぶクルマの国内初飛行に成功したことを発表しています。

空飛ぶクルマは、都市部での送迎サービス、離島や山間部での移動手段、災害時の救急搬送など、さまざまなシーンでの活用が想定されています。
少子高齢化や過疎化、自然災害の激甚化などの、日本が抱える社会課題の解決に貢献する技術です。

次世代の移動手段として注目されている空飛ぶクルマによって、「空の移動革命」が実現するのでしょうか。

大阪・関西万博で披露される「空飛ぶクルマ」とは

空飛ぶクルマには明確な定義はありませんが、「電動」「自動操縦」「垂直離着陸」の3つを兼ね備えているところが特徴です。
海外では、eTVOL(Electric vertical Take-Off and Landing aircraft)やUAM(Urban Air Mobility)と呼ばれており、世界各国で技術開発が進められています。*1

空飛ぶクルマという名称ではありますが、厳密には車の仲間ではなく、「電動」の「航空機」です。
見た目はドローンにも似ていますが、空飛ぶクルマは⼩型⾶⾏機や回転翼航空機に分類されるため、構造上人が乗ることのできないドローンとは、航空法上の分類や求められる安全レベルが異なります。*2
飛ぶ空域も異なり、ドローンが高度150m以下で飛行するのに対して、空飛ぶクルマはヘリコプターや小型飛行機と同じ高度500〜1000mの空域を飛行します。(図1)*2


図1:ドローンと空飛ぶクルマの飛ぶ空域の違い
出所)総務省「ドローン、空⾶ぶクルマ分野における電波の利⽤と課題」p.5
https://www.soumu.go.jp/main_content/000919451.pdf

空飛ぶクルマは、ヘリコプターと比較して必要な部品が少ないため、整備費用を抑えることができます。*1
静穏性が高いため街中での運航も可能で、環境負荷が小さいところも利点として挙げられます。
さらに、空飛ぶクルマはパイロットなしでの自律飛行が可能であるため、運航費用も安く抑えられます。
垂直離着陸によって狭い場所での離着陸が可能であるため、滑走路などの大規模なインフラも不要です。(図2)*3


図2:空飛ぶクルマの特徴
出所)山梨県「山梨県における「空の移動革命」実現に向けて」p.2
https://www.pref.yamanashi.jp/documents/112154/yamanashi-pref-sorakuru-pamphlet.pdf

現在、空飛ぶクルマは航続距離約100km、2〜3名乗りの小型の機体を中心に開発されています。
さらに、より長距離の飛行も可能な大型機の開発も進められています。

空飛ぶクルマの運航には道路などの地上インフラが必要ないため、目的地まで直線的に移動することが可能です。
そのため、空飛ぶクルマが実用化されれば、既存インフラに頼らずに、最速・最短の移動が可能になります。*3

2025年の大阪・関西万博では、空飛ぶクルマのデモ飛行が予定されており、会場内北西部に位置する「モビリティエクスペリエンス」に空飛ぶクルマの離着陸エリアが設置されます。(図3)*4


図3:大阪・関西万博で運行を予定している機体
出所)EXPO2025「Advanced Air Mobility 空飛ぶクルマ」
https://www.expo2025.or.jp/future-index/smart-mobility/advanced-air-mobility/

大阪・関西万博で披露されるデモ飛行では、会場内ポートと会場外ポートをつなぐ2地点運航を予定しています。

空飛ぶクルマによって私たちの暮らしはどう変わる?

空飛ぶクルマの普及は、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか。

政府は、空飛ぶクルマの主な利活用の例として、「都市内での活用」「災害時の活用」「離島や中山間地域での活用」の3つを想定しています。(図4)*5


図4:空飛ぶクルマの利活用の事例
出所)内閣府「「空飛ぶクルマ」の実現に向けた環境整備について」
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r06kou_haku/zenbun/genkyo/topics/topic_15.html

空飛ぶクルマは空の空間を有効に活用できるため、道路などの莫大なインフラ投資をせずに渋滞問題を解決することができます。
地震や風水害などの大規模災害時に道路が寸断された場合でも、空飛ぶクルマによって人命救助や物資支援が可能になるため、早期復旧も可能になります。
離島や中山間地域など、過疎化が進む地域での新しい移動手段としても期待されており、移動が不便な場所での観光需要も創出します。*5

空飛ぶクルマは、渋滞問題や気候変動による自然災害の激甚化、過疎化による人材不足などのさまざまな社会課題を解決することが期待されています。

さらに、空飛ぶクルマは、機体やサービスなどの技術開発やインフラ構築、パイロットや整備士などの人材育成といった新たなビジネスも創出します。(図5)*6


図5:空飛ぶクルマの実現により新たに生まれる想定ビジネス
出所)東京都「東京都空飛ぶクルマ実装プロジェクト(案)」p.4
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/seisakukikaku/sora2kai-shiryou3

空飛ぶクルマ向けの保険や空飛ぶクルマを活用したまちづくりなど、空飛ぶクルマの普及によって生み出されるビジネスは多岐に渡ります。

さまざまな可能性を秘めた空飛ぶクルマは、今後国内外で広く普及すると考えられており、その市場規模は2040年までに約160兆円規模まで成長することが予測されています。(図6)*7


図6:空飛ぶクルマの市場予測(世界)
出所)国土交通省「第1節 社会構造に関する予測」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1213000.html

実用化はいつ?空飛ぶクルマの実現可能性

空飛ぶクルマは、2025年以降の物流・旅客輸送サービスの拡大や2030年以降の都市部での本格運用の実現を目指して技術開発が進められています。
空飛ぶクルマの実用化に向けて重要なマイルストーンとされていたのが、2025年の大阪・関西万博での本格的な物流・旅客輸送サービスの開始です。*8

しかし、万博での来場者を乗せた日本初の商用運航は、機体の安全性を証明する手続きに時間がかかっていることが原因で、見送られることとなりました。*9

このような現状から、当初の計画からやや遅れをとっているようにみえる空飛ぶクルマの社会実装ですが、2024年から2025年にかけて実用化に向けて大きな動きもありました。

2024年10月には、トヨタの協業パートナーであるJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)が開発する空飛ぶクルマが、国内で初めてとなるテスト飛行を成功させました。
今回初飛行を成功させた機体は、乗員・乗客合わせて5人乗車可能で、上空500メートルを飛行すると想定した場合、自動車の走行音や人の会話よりも静かに飛行することができます。
この機体は、2025年に中東での商業運航を開始する計画で、大阪・関西万博におけるデモ飛行も予定しています。*10

さらに、2025年2月、東京都が空の移動革命実現に向けて、「東京都空飛ぶクルマ実装プロジェクト案」を発表しました。
このプロジェクト案では、2025年度から2027年度を「プレ社会実装」期間に設定し、2028年度から2029年度に一部地域での商用運航開始を目指す計画になっています。*6

東京都では、観光遊覧だけではなく、都内から他県や離島へ2地点移動や空港アクセス、災害時の物資や人員輸送などのさまざまなユースケースを想定しています。(図7) *6


図7:空飛ぶクルマの社会実装によって将来目指す姿
出所)東京都「東京都空飛ぶクルマ実装プロジェクト(案)」p.9
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/seisakukikaku/sora2kai-shiryou3

2030年度以降は市街地で広くサービスを展開し、新たなユースケースや運航ルートの検討にも取り組む予定です。

「空の移動革命」がもたらす新しい生活様式とは

垂直で離着陸が可能な空飛ぶクルマは、騒音のリスクも低いため、街中に離着陸ポートを設置することができます。(図8)*2


図8:空飛ぶクルマが普及した未来のイメージ
出所)総務省「ドローン、空⾶ぶクルマ分野における電波の利⽤と課題」p.10
https://www.soumu.go.jp/main_content/000919451.pdf

離着陸ポートの整備が進みサービスエリアが拡大していけば、生活に身近なモビリティとして定着していく可能性を秘めています。

空飛ぶクルマの機体を開発するジョビー・アビエーションは、ライドシェアサービスのUberと連携した航空輸送サービスを2025年に米国で提供開始する予定です。
空飛ぶクルマは時速320kmで直線移動ができるため、移動時間を短縮し、効率化することが可能になります。(図9)*2

図9:JOBYの⽶国におけるAerial Ridesharingサービスイメージ
出所)総務省「ドローン、空⾶ぶクルマ分野における電波の利⽤と課題」p.7
https://www.soumu.go.jp/main_content/000919451.pdf

日本でも、ANAホールディングスとジョビー・アビエーションが提携し、東京・大阪圏を対象としたエアタクシーサービスの提供を目指しています。
自転車や自動車などの地上の移動と空飛ぶクルマを組み合わせたマルチモーダルな移動を実現し、将来的には全国に展開していく予定です。*2

空飛ぶクルマは、安くて速くて便利な「気軽に乗り降りができる新しい交通手段で、普及すれば空の移動革命」が到来すると言われています。*8
これまでも、鉄道や自動車、飛行機などの新しいモビリティの登場によって、社会や産業構造が変革してきたように、空飛ぶクルマによって私たちの暮らしに大きな変化がもたらされるかもしれません。

参考文献

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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