これまでパワー半導体には主にSi(シリコン)が使用されてきましたが、ここ10年で、SiとC(炭素)で構成されるSiC(シリコンカーバイド)を使用した、新しいパワー半導体が実用化されました。*4
SiCを使用することで、従来のパワー半導体よりも、電力変換の効率を向上させることでき、さらなる省エネを実現します。
2014年には、SiCパワー半導体を実装した鉄道車両の消費電力が従来比の40%減を記録しています。*6
鉄道車両のインバーター装置にSiCパワー半導体が全面的に使用されるのは世界初で、電力損失の削減に加えて、軽量化による重量軽減によって省エネ効果を高めることに成功しています。(図5)*6
図5:鉄道車両用インバーターの解説図
出所)NEDONW「次世代の電力社会を担う「SiCパワー半導体」が、鉄道車両用インバーターで実用化」
https://webmagazine.nedo.go.jp/practical-realization/articles/201706sic/
現在では、SiCパワー半導体は、N700系新幹線やテスラなどの電気自動車にも搭載されています。*7
SiCパワー半導体の技術開発競争は激化しており、その市場規模は、2021年から2030年の10年で、約24倍まで成長することが予測されています。(図6)*8
図6:SiCパワー半導体の市場推移
出所)経済産業省「参考資料(半導体)」p.10
https://www.meti.go.jp/press/2023/12/20231222005/20231222005-12.pdf
政府は、産業部門におけるGX(グリーン ・トランスフォーメーション)の実現に向けて、消費電力の大幅な削減を可能とする次世代パワー半導体に対する投資促進政策を策定しています。
これまで海外に向かっていた企業投資を国内に呼び戻すための国内投資支援措置として、次世代パワー半導体に対する追加支援も実施されます。*9
パワー半導体の次世代材料としては、すでに実用化されているSiC以外にも、GaN(窒化ガリウム)やダイヤモンドなどが有望視されています。
SiCの次に研究開発が進んでいるのがGaNで、SiCと比較して耐久性は劣るものの、電流が流れている状態の電力損失が少なく、高速スイッチ切り替えが可能です。
SiCとGaNは親和性が高く、相互補完的な特徴を持っていることから、2つの素材を組み合わせたハイブリッド型パワー半導体の開発も進められています。
1つの材料だけではいずれ性能に限界を迎えてしまうと懸念されていましたが、2つの材料のいいとこどりをすることで、高効率で高信頼性なパワー半導体を作製することができると期待されています。*7
産業技術総合研究所では、2つの材料のいいとこどりを実現するために、複数のデバイスを一体化して1つの固体の塊とするモノリシック化というコンセプトのもとで実証を進めています。
次の図7は、コンセプトの実現可能性を検証するために開発されたGaN-SiCハイブリッド型パワー半導体デバイスです。*7(図7)
図7:直径100 mm基板上に作製されたGaN-SiCハイブリッド型パワー半導体デバイス
出所)産総研「高効率、高速で耐久性に優れたハイブリッド型パワー半導体を開発」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221012.html
高性能で小型化も可能なGaN-SiCハイブリッド型パワー半導体デバイスは、家電製品だけでなく、発電や自動車、電車などの産業用途での活用も期待されています。