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どこまで進んでいる? 本当に安全? 自動運転の意義と課題 

作家の沖田征吾さんによると、初めて自動運転車をテーマにした短編SF小説 “The Living Machine”が書かれたのは1935年のことでした。*1

「ガソリン自動車」の第1号誕生が1886年、日本で国産第1号のガソリン自動車が製作されたのが1907年、そしてアメリカのフォード社が初めて流れ生産方式で自動車の量産を始めたのが1908年。*2

庶民でもどうにか自動車に手が届くようになって間もなくのころ描かれたSF小説の内容は実に示唆的で、現在の状況に合致している部分も多いのですが、それはさておき、それから90年ほど経った現在、自動運転はいよいよ究極のレベルが視野に入ってきました。

自動運転はさまざまな社会問題を解決するといわれていますが、その社会的意義とはどのようなものでしょうか。
また現在、自動運転はどこまで実現していて、どのような課題があるのでしょう。

自動運転の社会的意義と現在の状況、そして課題についてみていきます。

自動運転はどんな課題を解決するのか

交通事故による負傷者は2021年、362,131人、死者は2,636人でしたが、死亡事故はその原因の95%が運転者の違反です。*3
自動運転が実用化することで、こうした交通事故が減ることが期待されています(図1)。


図1 自動運転の意義
出所)国土交通省「自動運転の実現に向けた取り組みについて」(2023年5月)p.1
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001609155.pdf

その他にも、「地域公共交通の維持・改善」「ドライバー不足への対応」「国際競争力の強化」「渋滞の緩和・解消」などの実現に役立つことが期待されています。

さらに、高齢者などの移動困難者が移動する際の「足」の確保や、高齢ドライバーの免許返納への受け皿、心身の疾病などによって移動に困難を抱える人々にも寄与する可能性が指摘されています。*4

現在はどこまで進んでいるのか

完全自動運転はレベル5ですが、自動運転はこれまでどのように進んできて、現在どこまで進んでいるのでしょうか。

日本での自動運転の進捗

まず、日本の状況をみてみましょう。(図2)。*5


図2 各レベルの自動運転の進捗
出所)国土交通省「社会課題の解決に資する自動運転車等の活用に向けた取組方針」p.3
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001623770.pdf

図2のレベル1「一方向だけの運転支援」とは、(1)ステアリング(ハンドル操作)による横方向の車両運動の制御、(2)加速・減速による縦方向の車両運動の制御の、どちらか一方に関する運転支援を指します。*6

このうち(2)の縦方向の車両運転制御は、2003年6月、ホンダが4代目「インスパイア」に世界初の「追突軽減ブレーキ」を搭載したのを皮切りに普及し、「衝突被害軽減ブレーキ」は2019年時点で9割を超える新車に搭載されていました。*7, *5

この「衝突被害軽減ブレーキ」は2021年11月以降にフルモデルチェンジをした新型車を対象に、現在、搭載が義務づけられています。*8

次に、レベル2の「縦・横方向の運転支援」とあるのは、上の(1)と(2)の両方に関する運転支援です。
これに関しては2019年7月に、日産が高速道路をハンズフリーで走行できる「プロパイロット2.0」を搭載した「スカイライン」を発売しました。一車線内のハンズオフ走行と、分岐や追い越しの車線変更支援を実用化したのは世界初です。*9
また、全国各地で、レベル2相当の自動運転移動サービスの実証実験が進んでいます。*5

ここまでの運転主体は「運転者」ですが、レベル3からの運転主体は「システム」です。*6

「レベル3」は特別条件下でシステムが自動運転を行いますが、システムの介入要求があった場合に運転者が適切に応答し、安全確保することが想定されています。

2021年3月、ホンダは自動運行装置「トラフィックジャムパイロット」を搭載し、世界初となるレベル3に対応した新型「レジェンド」を発売しました。*10

次の「レベル4」は特定条件下での完全自動運転を指します。*5
日本では、道路交通法の改正により2023年4月からレベル4の自動運転が可能になりました。*3

このレベルの取り組みとしては、2023年5月に福井県永平寺町で、無人自動車運転移動サービスが開始されました。
また、政府は、高速道路でのレベル4を2025年を目途に実現するという目標を掲げています。

海外の自動運転を活用した移動サービスの状況

次に海外の自動運転を活用した移動サービスの状況をみてみましょう。
まず、レベル2のサービスには、ドイツで2020年から開始されたミュンヘン市内での有人タクシーの運行、オランダで2016年から開始された特定経路でのバスの運行が挙げられます(図3)。*11


図3 海外の自動運転を活用した移動サービスの状況
出所)国土交通省「自動運転の実現に向けたインフラ支援について」p.3の図から抜粋
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001596165.pdf

また、アメリカや中国では、広範囲なエリアでレベル3、4のタクシー、バスが、運転手なしで運行しています。

アメリカにおける自動運転開発への投資と事故発生状況

ここで、アメリカの投資と事故発生についてみてみましょう。

アメリカでは自動運転開発に膨大な金額が投資されています(図4:左図)。*11


図4 自動運転開発への積算投資額(左図)と自動運転車両の走行距離・事故発生状況(右図)
出所)国土交通省「自動運転の実現に向けたインフラ支援について」p.5
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001596165.pdf

たとえばアメリカのCruise社への累積投資額は、日本企業のティアフォーへの投資額の約66倍に上ります。

こうした資金力を背景にアメリカでは自動運転による総走行距離を伸ばしていますが、その一方で、走行中の事故も発生しています(図4:右図)。

こうした状況から、日本での実道での実証実験にあたっては、企業戦略やリスクマネジメントが重要であることが指摘されています。

目標に向けた取り組みはどこまで進んでいるのか

上述のように、自動運転にはさまざまな社会課題を解決するポテンシャルがあります。
そこで、政府は以下のような目標を掲げています。*5

表1 自動運転に関する政府目標

出所)国土交通省「社会課題の解決に資する自動運転車等の活用に向けた取組方針」p.2
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001623770.pdf

では、こうした目標に向けての取り組みはどの程度、進んでいるのでしょうか。

警察庁が2023年に行った調査研究では、自動運転の拡大に向けてレベル4相当の自動運転システムの研究開発やサービス運用などに取り組んでいる自動車メーカー、大学・研究機関、運送事業者、道路管理者などを対象に、書面によるヒアリングを行いました。*6

その結果、レベル4のサービスの運行開始時期については、以下のような回答が得られました。


図5 自動運転のサービスの運行開始予定
出所)警察庁「令和5年度警察庁委託調査研究 令和5年度 自動運転の拡大に向けた調査研究報告書(2024年3月)p.13
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/r5_tyousakenkyuhoukokusyo.pdf

「未定・回答できない」という回答が一定数ありますが、レベル4のサービスとして「2025年以前」の開始との回答があったのは、物流では「高速道路におけるトラック輸送」「敷地内における輸送」、自家用車では「自動バレーパーキング(施設の入口で車を預かって駐車場に回送し、帰るときに車を出すサービス)」、移動サービスでは「自動運転バス」です。

社会的ルール実装のための重点施策

自動運転を実現するためには、社会ルールの実装も必要です。
デジタル庁は、そのための重点施策について、以下のようなロードマップを発表しました。*12

表2 自動運転の社会ルール実装のための重点施策ロードマップ

出所)デジタル庁「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方について」(2024年8月7日)p.7
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2024/442/doc/20240807_shiryou1-1.pdf

自動運転実現のために解決すべき課題はなにか、どのように解決すべきか

日本学術会議は、2020年、自動運転の社会的課題についての提言を行いました。
その内容をみていきましょう。

さまざまなレベルの課題

まず、現在のレベル4の社会実装からさらにレベル5の完全自動運転に至るまでの自動運転を実現するためには、以下のような課題があります。*4

・センサや認識技術の限界による自動化範囲の制約
・判断技術への倫理的問題
・安全性評価と国の認証プロセスの構築
・地図やインフラの整備のあり方
・法制度のさらなる整備
・自動・手動混在交通下での安全確保
・社会の受容性

課題解決に向けて

では、こうした課題をどのように解決していけばいいのでしょうか。

提言の中では、課題の解決に向けて、自動運転をそれ単体で捉えるのではなく、新たな社会のデザインのなかに位置づけることが重要であると指摘されています。

現在は特に、土地利用やまちづくり・コミュニティの観点とモビリティの関係において、まだ
グランドデザインとなるべきものがないため、人口減少社会における地域の将来像をきちんと定めたうえで、それに向かってロードマップを示していくべきであるという提言です。

将来的なグランドデザインのなかで自動運転の開発や社会実装を行う際には、人間中心の設計概念が重要であるとの指摘もあります。

さらに、個人情報の扱い方、セキュリティのあり方、保険制度、責任の所在などの検討をエビデンスベースで行うことや、人材の発掘と育成、研究開発の重要性も指摘されています。

日本学術会議は、提言の最後で、こうした課題解決のために、自動運転の研究開発や社会実装に関わるすべての関係者が真摯に取り組むこと、また研究開発プロジェクトの推進や交通安全に関わる行政機関は、学術界、産業界、事業者が上述の提言にしたがって自動運転を推進するよう、指導し監督すべきであると述べています。

おわりに

自動運転によって多くの社会課題が解決すると期待されています。
しかし一方で、数々の課題が残されています。

実は冒頭でふれたSF小説には、自動運転車の販売に前のめりになっている自動車会社の面々に対して、1人のメカニックが「マシン」の暴走を危惧して反対するシーンがあります。*13

折しも2024年10月、ノーベル物理学賞がAIの基礎技術である機械学習を確立した2人の研究者に贈られることが決まりました。*14
そのうち、AIの基盤技術「機械学習」を確立したジェフリー・ヒルトン博士は電話での記者会見で、「様々な悪影響が制御不能に陥るという脅威も心配しなければならない」と懸念を示しました。

自動運転技術にはこうした恐れはないのでしょうか。
様々な側面をもつ自動運転の、今後の動向から目が離せません。

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横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
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