ネイチャーポジティブとは、現在進行している生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せることを意味する言葉で、日本語では「自然再興」と訳されます。*1, *2
気候変動適応やサーキュラーエコノミーなどと並ぶ、GXに関わる重要な政策の一つでもあります。
2022年開催の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」では、ネイチャーポジティブの世界的な社会目標として「2020年を基準として2030年までに自然の喪失を食い止め、逆転させ、2050年までに完全な回復を達成する」ことを掲げています。(図1)*1, *2
図1:ネイチャーポジティブの概念図
出所)サイエンスポータル「《JST共催》持続可能な生物環境を作ろう サイエンスアゴラ2023オンライン企画「ネイチャーポジティブと科学技術」より」
https://scienceportal.jst.go.jp/explore/reports/20231222_e01/
ネイチャーポジティブは、2021年のG7サミットで公式に使用され始め、2022年のCOP15を契機に広まった概念ですが、生物多様性や自然との共生については1990年代前半から国際的に議論されてきました。(図2)*3
図2:ネイチャーポジティブの普及に至るまでの主な出来事
出所)経団連「ネイチャーポジティブ早わかりQ&A」p.8
https://www.keidanren.or.jp/journal/monthly/2024/05/p08.pdf
ネイチャーポジティブの新しい国際目標を達成するためには、従来の自然保護活動に加えて、廃棄物の削減や持続可能な生産を実現するサーキュラーエコノミーや、脱炭素化などの気候変動対策などに取り組む必要があると考えられています。(図3)*4
図3:ネイチャーポジティブを実現するための行動の内訳
出所)環境省「J-GBFネイチャーポジティブ宣言」
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/j-gbf/about/naturepositive/
日本政府は、GBFの採択をうけて、2030年までにネイチャーポジティブを達成することを掲げた「生物多様性国家戦略2023-2030」を2023年3月に閣議決定しています。(図4)*3
図4:「生物多様性国家戦略2023-2030」の全体像
出所)経団連「ネイチャーポジティブ早わかりQ&A」p.10
https://www.keidanren.or.jp/journal/monthly/2024/05/p08.pdf
この国家戦略では、ネイチャーポジティブ実現に向けた目標のひとつとして「30by30」が位置付けられています。
「30by30」とは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようという目標です。
30by30では、国立公園などの保護地域の拡張、管理の質の向上のほかに、保護地域以外でも生物多様性保全に資する地域(OECM:Other Effective area-based Conservation Measures)を設定し、地域の力を結集して保全します。*5
さらに、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域も「自然共生サイト」と認定し、OECMに登録されます。*6