「GX標準スキル」をご存じでしょうか。
GXの重要性が増す一方で、GXの推進に必要なジョブやスキル、人材類型がどのようなものか、明確ではありませんでした。
それらを策定したのが「GX標準スキル」です。
その内容、策定の背景、目標、活用方法について、みていきましょう。
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IoT カーボンニュートラル
「GX標準スキル」をご存じでしょうか。
GXの重要性が増す一方で、GXの推進に必要なジョブやスキル、人材類型がどのようなものか、明確ではありませんでした。
それらを策定したのが「GX標準スキル」です。
その内容、策定の背景、目標、活用方法について、みていきましょう。
なぜ「GX標準スキル」(以下「GXSS」)を策定する必要があったのでしょうか。
GXSSを策定したのは、Gリーグで2023年11月に活動を開始した「GX人材市場創造WG」(以下、「WG」)です。*1
Gリーグは、2050年カーボンニュートラル実現と社会変革に向けて、GXヘの挑戦を行い、持続的な成長実現を目指す企業が、同様の取り組みを行う企業群、官・学と協働する場です。*2
2023年2月時点で日本のCO2排出量の4割以上を占める企業が賛同表明し、2023年4月から本格的な活動を開始しました。*3
「WG」は、GX関連人材の求人数が増加する一方で、実際の転職者が伸び悩んでいる状況を踏まえて、GX人材市場を迅速に立ち上げることを目的に設立されました。*4
「WG」のメンバー企業による合計4回の議論と、WG外での詳細検討、GXリーグ内パブリックコメントを経て、2024年5月に公表したのが、GXSSです。*5, *1
策定の背景は、GX人材の不足と、人材投資を先行して行う必要性があることです。
大手転職エージェントによる調査では、2022年度のGX求人は2016年度の5.87倍に上るのに対して、転職者の伸びは3.09倍に留まっており、GX人材が不足している状況が窺えます。*5
また、GX関連のジョブとスキルが不明確で、それらのマッチングが適切に行われていないおそれもあります。
さらに、CO2削減を着実に計画・実行できる組織にするためには、必要となるプロフェッショナル人材やその配置を含めて、組織のあり方を検討し、人材への先行投資をする必要があります。
GXSSでのGXの定義はどのようなものでしょうか。
また、どのような人材を対象にしているのでしょうか。
GXSSでは、「エネルギー白書2023」での以下のようなGXの定義をふまえています。*5
2050年カーボンニュートラルや、2030年度の温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取組を、経済成長の機会として捉え、温室効果ガス排出削減と経済成長・産業競争力向上の同時実現に向けて、経済社会システム全体を変革させる
それに加えて、GXSSの検討対象としてのGXを、以下のように定義しています。
● 企業としてのサステナビリティ(企業の稼ぐ力とESG[環境・社会・ガバナンス」の両立)の考え方の中にGXを位置づけ、GXに基軸を置く
● GXにもマクロとミクロの視点が存在するが、ミクロのGX(個別の企業の視点)とする
図1 「GX人材市場創造WG」が検討対象としたGX 出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)―検討概要と活用方法―」p.8
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS)-%20検討概要と活用方法.pdf
「人材」を検討する上での捉え方、視点は多様ですが、GXSSでは「企業の競争戦略」に基軸を置き、さらに他の視点での人材のあり方にも留意しながら、検討を進めました。*5
対象とするのは、以下のような人材です。
● GXに関わる全ての人
● GXを推進する人材
図2 GXSSが対象としている人材 出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)―検討概要と活用方法―」p.11
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS)-%20検討概要と活用方法.pdf
このうち、「GXに関わる全ての人材」に対しては、リテラシーの標準化を、「GXを推進する人材」に対しては、推進スキルの標準化を行いました。
また、すべてのビジネスパーソンにとって必要なものの検討については、2023年度は必要性があるかどうかに絞って検討しました。
GXSSは、「GXリテラシー標準Ver1.0」(以下、「GXSS-L」)と「GX推進スキル標準Ver1.0」(以下、「GXSS-P」)の2つで構成されています。*6
まず、「GXSS-L」の内容をみていきましょう。
2023年度にGXSS-Lで策定されたのは、以下の2点です。*6
● GXに関するリテラシーとして身につけるべき知識と学習が期待される項目(学習項目例)の定義
● GXスキルレベル1としての学習到達度の定義
目的は、「全ビジネスパーソンがGXリテラシーを身につけることで、GXの必要性を認識し、機会として捉え、ボトムアップからの経済・社会、産業構造全体の変革を目指す」こと。*6
効用は以下の2点です。
● よくある課題や失敗を回避し、リテラシー向上のための施策をより効果的に機能させることができる
● 知っておくべき学習項目が明確になることで具体的な学習を推進することが可能にな
る、リテラシーがある状態の定義がなされることで、スキルの可視化ができるようになることが期待できる
GXリテラシーを身につけた人材のイメージは以下のようなものです。
図3 GXリテラシ―を身につけた人材のイメージ
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.6
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
学習項目は、以下の4つに大別されます。*6
● Why:GXの背景
● What:何をすべきか
● How:どうするべきか
● Mind/Stance:マインド・スタンス
また、人材育成と評価のレベル標準として機能することを想定した、「GXSSのレベル定義」も示されています。
図4 「CXSSのレベルの定義」
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.38
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
GXSS-Lは、このレベル軸の「1」に相当すると定義されています。
次に、学習項目別にその内容とそれぞれの学習到達度(レベル1)をみていきましょう。
図5 学習項目「Why」の学習項目一覧と学習到達度
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.40
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
図6 学習項目「What」の学習項目一覧と学習到達度
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.41
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
図7 学習項目「How」の学習項目一覧と学習到達度
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.42
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
図8 学習項目「Mind/Stance」の学習項目一覧と学習到達度
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.43
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
次に、GXSS-Pをみていきましょう。
GXSS-Pで定義されているのは、以下の2点です。*6
● GX推進に必要な人材類型とロールの定義(一部)
● 「GXアナリスト算定」「GXストラテジスト削減計画」のレベル別スキルの定義
GXSS-Pに該当するレベルは、図4でみたGXSSレベルのうち、02~04で、プロフェショナルレベルのスキルに絞って標準化しています。
また、それらのスキルは、必要に応じて、マネジメントや企画など、企業内で業務上発揮している他のスキルと組み合わせて利用し、人材育成と評価を行うことを想定しています。
図9 GXSS-Pのスキルと他のスキル
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.53
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
GXSS-Pでは、GXを推進する主な人材として、4つの人材類型を定義していますが、それぞれの類型が他の類型とのつながりを積極的に構築し、協働することの重要性を指摘しています。*6
なお、4つの類型のうち、「GXインベンター」と「GXコミュニケーター」はGXSSVer.1.0では未着手で、今後定義される予定です。
図10 GXSS-Pの人材類型の定義
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.55
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
まず、「GXアナリスト」のロールは「算定」で、そのレベルは以下のように定義されています。*6
図11 人材類型「GXアナリスト」のロール「算定」のレベル定義
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.57
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
次に、「GXストラテジスト」のロールは「削減計画」で、レベルは以下のように定義されています。*6
図12 人材類型「GXストラテジスト」のロール「削減計画」のレベル定義
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」p.59
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS).pdf
GXSSにはさまざまな活用方法が考えられますが、以下が参考例です。*5
図13 GXSSの活用例
出所)GXリーグ GX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)―検討概要と活用方法―」p.6
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GXスキル標準(GXSS)-%20検討概要と活用方法.pdf
なお、図13の「参照する成果物」の右下、「ディスカッション・ペーパー」とは、検討の中で出た意見から、重要と思われる考え方、留意点、新たな論点を基に、取り組むべきことを意見としてとりまとめたもので、今後、公表される予定です。*5
これまでみてきたように、GXSSVer.1.0によって、GXに関するスキルや、人材類型とそのロールの一部が明確になりましたが、今後もさまざまなことが検討される予定です。*5
雇用が増加する一方でGX人材が不足している現在、GX人材市場の構築が急がれています。
関心がある方は必要なスキルや人材類型を把握し、今後の動向に注目してみてはいかがでしょうか。
横内 美保子
博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。