「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は、GXの重要な取り組みのひとつです。
そう聞いても、ピンとくる人は多くないかもしれません。
しかし、身近なところでは、「日清カップヌードル」の容器もひとつの事例。「自然の中のセカンドホーム・サブスク」という斬新なサービスもあります。
他にも日本企業はさまざまな取り組みを通してサーキュラーエコノミーを推進しています。
興味深い事例を糸口にして、サーキュラーエコノミーの意義を考えます。
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ものづくり
「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は、GXの重要な取り組みのひとつです。
そう聞いても、ピンとくる人は多くないかもしれません。
しかし、身近なところでは、「日清カップヌードル」の容器もひとつの事例。「自然の中のセカンドホーム・サブスク」という斬新なサービスもあります。
他にも日本企業はさまざまな取り組みを通してサーキュラーエコノミーを推進しています。
興味深い事例を糸口にして、サーキュラーエコノミーの意義を考えます。
「サーキュラーエコノミー(循環経済)」(以下、「CE」)とは、「リニアエコノミー(線形経済)」に代わって、世界の潮流になりつつある新たな経済のしくみです。*1, *2
従来型のリニアエコノミーでは、大量生産・大量消費・大量廃棄が一方向に進みます。こうした経済活動では、物質は循環せず、気候変動問題や天然資源の枯渇、生物多様性の破壊など、さまざまな環境問題を引き起こしてしまいます。
廃棄物を減らすための「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」の取り組みは以前からありましたが、CEは3Rに加え、あらゆる段階で資源を効率的・循環的に利用しながら、付加価値を最大化することを目指す社会経済システムです。
図1 リニアエコノミーとサーキュラー・エコノミーの概念図
出所)環境省「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1部>第2章>第2節 循環経済への以降>1 循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けて)」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/html/hj21010202.html
最近はヨーロッパを中心にCEに関するルールづくりが進み、それに呼応するかたちで各国がCEへの転換を進めています。
日本でも、2020年5月に公表された「循環経済ビジョン2020」で、CEへの移行を加速させるための方向性が示されました。*3
また、2021年3月には、官民連携を強化してCEの取り組みを促進するために、環境省、経済産業省、日本経済団体連合会(経団連)によって「循環経済パートナーシップ(J4CE)」が創設されました。*4, *5
J4CEには2024年8月17日現在、186社の企業と20団体が参加し、ウェブサイトではその取り組み事例が公表されています。
興味深い事例をみながら、CEの意義を探っていきましょう。
CEの取り組み事例といっても、その対象も方法も多岐にわたります。ここでは、さまざまな分野での多様な取り組みをご紹介します。
まず身近なところで、カップ麺の容器にバイオプラスチックを使った事例をみていきましょう。
「バイオプラスチック」と呼ばれるものには2種類あります。*6
植物などの再生可能な有機資源を原料とする「バイオマスプラスチック」と、一定の条件下で自然界に豊富に存在する微生物などの働きによって最終的に二酸化炭素と水にまで分解される「生分解性プラスチック」です。
ここでご紹介するのは「日清カップヌードル」の容器に「バイオマスプラスチック」を使用した取り組みです。
同社は、発売当初は発泡PS(ポリスチレン)の容器を使用していましたが、2008年に再生可能資源である紙を使用した「ECOカップ」に切り替えて大幅なプラスチック量削減を実現しました。
容器改良の取り組みはさらに続きます。
2019年12月から、容器に使用している石化由来のプラスチックを植物由来のバイオマスプラスチックに一部置き換えた「バイオマスECOカップ」への切り替えを開始しました。
この容器切り替えが完了したのは、2021年度です。
バイオマス度を81%に引き上げることで、それまでの「ECOカップ」に比べて、石化由来プラスチック使用量はほぼ半減、ライフサイクルで排出されるCO2量を約16%削減することに成功しました。
日本人が1年間にどのくらいのカップ麺を食べるかご存じでしょうか。
国民1人当たりのインスタントラーメン年間消費量は約47.2食で、そのうちカップ麺が占める割合は65.6%ですから、1人当たり1年に30個強のカップ麺を食べている計算になります。*7
2023年度に日本で作られたカップ麺は、実に37億7,437万食。
1個ずつは小さな容器でも、「バイオマスECOカップ」のような取り組みがいかに重要かみえてきます。
AIや3D技術、ブロックチェーンなどの先端技術を活用して、衣類をつくるときの廃棄をゼロに近づけるシステム、「Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)」を開発したスタートアップもあります。*8,*9
図2 「Algorithmic Couture」
出所)PRRIMES Synflux株式会社「Synfluxとゴールドウインによる「SYN-GRID」の第2弾が公開。THE NORTH FACEとNEUTRALWORKS.から極小廃棄の製品を量産開始」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000080230.html
Synflux株式会社は、すべての人が惑星や自然に配慮しながら、自分らしい創造性を発揮できる循環型創造社会の実現を目指す「思索的デザインラボラトリー」です。
H&Mファウンデーションが主催する「第4回グローバル・チェンジ・アワード」の特別賞受賞がきっかけで注目されるようになり、ブランドや研究機関とプロジェクトや実証実験を展開しています。
同社は最近、ゴールドウインとの共同プロジェクト「SYN-GRID」第2弾を公表しました。
このプロジェクトでは、「Algorithmic Couture」のアルゴリズムをアップデートし、型紙設計を最適化することに成功。デザインや着用感を損なうことなく、廃棄量をさらに大幅に削減した製品を量産しています。*10
ファッション産業は、その華やかなイメージとはうらはらに、大量生産・大量消費、大量廃棄によって環境負荷が非常に大きく、それが国際的な課題になっています。*11
服の端材(はぎれ)の排出量も年間45,000t 、服に換算すると約1.8億着に当たります。
そうした状況を考えると、「Algorithmic Couture」は、サステナブルファッション(環境にやさしい、持続可能なファッション)につながる有益なシステムであることがわかります。
家電リサイクルプラントでの取り組みもあります。
一般財団法人 家電製品協会は、解体した廃家電の部品をAIによる画像認識で種類別に自動判別し回収(ピッキング)する、自動ピッキング装置を開発しました。*6
パナソニックエコテクノロジーセンター株式会社は、薄型テレビ解体ラインにこのシステムを導入しています。
回収量の多い4種類の部品の画像を事前に約3,000枚ずつ登録することで、AIが約95%の認識率で判別し、それを多関節ロボットが約98%の確率でピッキングしています(図3)。
図3 薄型テレビ解体ラインにおける自動ピッキングシステムのフロー
出所)循環経済パートナーシップ(J4CE)「日本企業による循環経済への取組 注目事例集」p.13
https://j4ce.env.go.jp/publications/J4CE_2022_NoteworthyCases_J.pdf
中部エコテクノロジー株式会社は、このシステムをエアコン室外機の解体ラインに導入しました。
このラインでは、コンプレッサー、基板、モーター、トランスなど、サイズや形状の異なる部品を約98%の確率で回収しています。このシステムによって、特に作業員が重い部品を持ち上げる際の負担が軽減できるようになりました(図4)。
図4 エアコン室外機の解体ラインにおける自動ピッキング
出所)循環経済パートナーシップ(J4CE)「日本企業による循環経済への取組 注目事例集」p.13
https://j4ce.env.go.jp/publications/J4CE_2022_NoteworthyCases_J.pdf
家電リサイクル法で定められた廃家電4品目、エアコン、テレビ、電気冷蔵庫・冷凍庫、電気洗濯機・衣類乾燥機が、年間どれくらい回収されているかご存じでしょうか。
2023年度に指定取引場所で引き取られた台数は、約1,445万台に上ります。*12
天然資源の乏しい日本にとって、家電に使われている部品や素材のリサイクルは重要な取り組み。自動ピッキング装置は、その家電のリサイクルを支える大切な要素の1つです。
最後にご紹介する事例は、株式会社Sanuの「SANU 2nd Home」。月額5万5千円で日本中の海・山・湖の近くに「自然の中のもう一つの家」を持つことができるという、サブスクリプションサービスです。*13
法人契約プランや共同オーナープランもあり、自分に合ったプランを選ぶことができます。
このサービスは、都市から自然へと繰り返し通い、暮らしを営むライフスタイルを提案して
います。そのような体験から、自然との共生に意識が向くようになり、教育的価値という付加価値も生まれます。*8
図5 「SANU 2nd Home」の建築
出所)株式会社Sanu「SERVICE」
https://sa-nu.com/#service
セカンドホームの建築自体もCEの原則に則っています。
カーボンネガティブ(温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る状態)を実現しているだけでなく、建設資材の再活用が可能な「釘を使わない」⼯法、土壌への負荷を軽減する高床式建築、国産材利用、解体に向けたプレハブ建築・分解可能設計、プロセスの可視化など、建築のライフサイクル全体の循環を可能なかぎり実現しようとする試みです。
このサービスは、斬新なビジネスモデルに加え、日本の自然風土に合った循環型建築の可能性を追求しています。
これまでみてきた事例はCEの取り組みのほんの一例ですが、どれも資源消費や廃棄物の最小化、環境保全をめざしつつ、付加価値を生み出す経済活動です。
また、先端技術の活用や新たなビジネスモデルの創出という特徴もみられます。
CEは環境負荷を減らし、資源の枯渇を防ぐとともに、新たなビジネスチャンスを産み出す、社会経済システムなのです。