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「半導体不足」の理由はコロナ禍だけではない 何が起きている?先行きは?

2021年の初頭から「半導体不足」が話題になっています。

半導体はいまや多くの家電で使用されているほか、スマートフォン、タブレット、パソコン、さらに開発競争が進んでいるAIには欠かせません。また自動車や人工衛星といった、ありとあらゆるところに存在する製品です。

また半導体といえば、台湾の大手メーカー「TSMC」が熊本に大工場を建設したことを思い浮かべる人も多いことでしょう。

半導体不足は、長く話題になっている現象です。何が起きたのか、いまどうなっているかを解説していきます。

半導体のしくみと需要予測

半導体とは文字通り、「導体(=電子を通す物質)」と「絶縁体(=電子を通さない物質)」の中間の性質を持つ物質や材料のことです。

最大の特徴は電子の流れを自由に制御できることです。

半導体の材料としてシリコンの名前がよく挙げられますが、純粋なシリコンの結晶は絶縁体に近く、電圧をかけても電気はほとんど流れません*1。

ただ、ここに電子を余計に持った、あるいは少ない物質を「不純物」として加えることで、電流の向きによって電気が流れたり流れなかったり、という性質を持つようになります。電気の流れを必要に応じて変えることができるのです。

一方的に電気が流れ続けるわけでもなく、まったく電気が流れないわけでもない。この性質がさまざまな機械の中で役立っています。

エアコンの温度センサーによる運転制御、炊飯器の火力調整も半導体があってこその技術です。

半導体の需要予測

機械がいろいろな機能を持ち、時代が便利になるにつれて、半導体の需要は大幅に増加しています。

アメリカに本拠を置くグローバルコンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、半導体市場は2030年までには1兆ドル規模になるとしています(下図左)。

半導体の世界市場予測
(出所:「The semiconductor decade: A trillion-dollar industry」McKinsey & Company)
https://www.mckinsey.com/industries/semiconductors/our-insights/the-semiconductor-decade-a-trillion-dollar-industry

2021年からの年平均成長率は30%という急激な伸びも予測されています。

特に大きいのは「Automotive elecronics」=自動車分野です。2021年には半導体需要のわずか8%でしたが、10年後には13~15%に達する可能性があるといいます*2。
世界的に自動運転など新しい技術を投じた自動車の開発が注目されていることが背景にあります。

半導体が突然不足した理由

さて、世界的な半導体不足はどのように始まったのでしょうか。

おもには新型コロナのパンデミックがきっかけです。
各国で外出制限が設けられ、物流も大混乱し、生産にも流通にも大きな影響が出たのです。

コロナ禍で任天堂のゲーム機「Switch」が入手困難になったことが記憶に新しい人もいるのではないでしょうか。

これも、半導体不足が一因です。

外出できなくなったから家でゲームでも・・・と思っていたのに手に入らない、そんな状況が続きました。

突然かつ未曾有の出来事だっただけに、半導体産業やそれを使うメーカーは大混乱だったとも言えるでしょう。

「日の丸半導体」の凋落と自動車業界への打撃

とはいえ日本の製造業は強いのだからそこまで大きな影響はないのではないか、というイメージがあるかもしれません。しかし事情は大きく異なります。

将来的にはシェアを失う危険性も

日本の半導体は長らく「凋落」の状態にあります。

日本の半導体の世界シェアの推移
(出所:「半導体戦略(概略)」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210604008/20210603008-4.pdf p7

折れ線グラフが日本の半導体の世界シェアを示していますが、右肩下がりです。それどころか先々、世界でのシェアを失いかねない状況になっているのです。

こうなってしまったのには、いくつもの理由が挙げられています*3。
まずは1980年代の日米貿易摩擦での敗戦です。

その後も、日本がバブル崩壊で各種ビジネスに思い切った投資ができかった一方で韓国・台湾・中国が国家戦略として半導体産業を成長させたこと、日本では産業のデジタル化が遅かったため、半導体の国内設計体制を整えるのが遅れたこと、などが積み重なっています。

結果、先端半導体は海外からの輸入に依存してしまうようになりました。コロナ禍のように、海外からの人やモノの流入が大幅に制限される事態がやってくると、日本の幅広い産業に再び影響を与えることでしょう。

コロナ禍が自動車産業に打撃を与えた理由

今回の半導体不足で大きな打撃を受けたのが、自動車メーカーです。最新のクルマには数千個の半導体が搭載されています*4。

一方で、コロナ禍で需要が落ち込んだと考えて生産ペースを落としていた各メーカーですが、いちはやく経済活動を再開させた中国で自動車の需要が復活するなど、需要が急激に回復してしまいました*5。

その段階で自動車メーカーが増産体制に入ろうとしても、すぐにできるわけではありません。というのは、半導体は製造過程が複雑で、材料から最終製品のチップを仕上げるためには半年近くかかるという特徴があるからです*5。

あわてて半導体を発注しても間に合わないというわけです。

さらに他の部品の不足もあいまって2022年には国内でも、納車までの期間が多くの車種で3か月以上、車種によっては1年以上かかるという現象が起きています*6。

気象、米中貿易摩擦も大きく影響

半導体不足を加速させたのは、コロナ禍によるこれらの事情だけではありません。

まず異常気象の問題です。

コロナ禍真っ只中の2021年2月には米テキサス州が記録的な寒波に見舞われ、電力危機に陥りました*7。停電も発生し、半導体工場が操業停止に追い込まれるという事態に陥りました。

さらに同じ年の5月には、半導体で大きな世界シェアを占める台湾で56年ぶりと言われる干ばつが発生し*8、水不足で半導体の生産に大きな影響が出てしまいました。

なお、台湾の大手メーカーTSMCが熊本県に大規模な工場を設立したのは、水との関係もあります。
半導体は製造工程で、不純物を取り除くために大量の洗浄水を必要とします。熊本県は地下水が豊富な地域であり、TSMCはこの点に目をつけたという事情もあるのです*9。

そして、政治的な要因も半導体の需給に影響を与えています。米中の対立です。

米バイデン政権は2022年11月に、先端半導体や半導体製造装置の中国への輸出を制限する規制措置を導入しました。その後さらに、中国の半導体設計企業を貿易制限リストに加え、アメリカからの半導体製造装置などを中国企業に販売することへの規制を強化しています*10。

しかし、中国も黙ってはいません。

翌2023年7月に中国商務省は、半導体や電気自動車などで利用されるガリウム、ゲルマニウムといった原料の関連製品の輸出管理を強化すると発表しました*11。

事態はさらに深刻化します。
2024年に入るとバイデン政権は日本やオランダのメーカーに対して、先端半導体技術へのアクセスを中国に提供し続ける場合、利用可能な最も厳しい貿易制限措置の利用を検討している、と伝えたのです*12。

日本の半導体メーカーに大きな影響が及ぶことは避けられません。
米中対立による半導体の覇権争いは、泥仕合の様相を呈してきたといえます。

TSMCの日本への工場の誘致には、日本政府として国産の半導体を確保したいという意図もあることでしょう。

日本を含め、世界のメーカーがどう立ち振舞っていくのかが注目されます。

注釈

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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