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生成AIが電力危機を招く?AI時代に求められるエネルギー戦略とは

生成AIとは、入力された条件をもとにイラストやテキストなどを生成する人工知能のことです。生成AIを活用すれば、作業を効率化させたり、新しいアイディアを生み出すことができ、私たちの生活や働き方を大きく変える技術として期待されています。

大きなポテンシャルを秘めた生成AIですが、さまざまな分野で活用が進むことによる爆発的な電力需要の増加が危惧されています。
国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの電力消費量が2022年から2026年の4年間で、最大2.3倍になると試算しています。
さらに人口減少や節電などによって電力需要が減少傾向にあった日本国内においても、今後は電力需要が増加していくことが予測されています。

AI時代の到来によって、私たちの社会は大きく変わろうとしています。AIが拓く未来の社会では、どのようなエネルギー戦略が求められるのでしょうか。

近年急速に普及が進む生成AIとは

生成AI(Generative AI:ジェネレーティブAI)とは、データやパターンを学習することによって、新しいコンテンツを創造する人工知能です。
プロンプトと呼ばれる指示を入力すれば、生成AIがインターネット上のさまざまなデータを大量に学習し、文脈に沿った適切な回答を出力します。(図1)*1


図1:生成AIの仕組み
出所)総務省「生成AI はじめの一歩」p.6
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/special/generativeai/data/file01.pdf

生成AIは図1のような指示に対する回答だけでなく、画像や文章、動画などを生成することも可能です。指示の入力に高度な技術や専門知識は必要なく、画像や音声、グラフなどを入力しても回答が得られます。生成AIが登場する以前のAIが、情報の特定や予測を目的としたものであったのに対して、生成AIは世の中には存在しない新しいアウトプットを生み出すことを目的としています。学習に使用するアルゴリズムは同じですが、学習の視点や使用する学習データが異なります(表1)*2
表1:従来のAIと生成AIの違い

出所)野村総合研究所(NRI)「用語解説 生成AI」
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/sa/generative_ai

生成AIはその使いやすさにより瞬く間に普及し、現在では生活に身近な存在となっています。2022年11月にOpenAI社が公開したChatGPTは、公開からわずか2か月で全世界のユーザー数が1億人に達しました。*3
1億ユーザー達成まで、X(旧Twitter)が5年、Facebookが4年半、Instagramが2年半かかったことを踏まえると、驚異的なスピードで普及していると言えるでしょう。*1

ChatGPTは、日本国内での認知度も高く、2023年5月には過去最高の767万アクセスを記録しています。(図2)*4

図2:Openai.comへの日本からのアクセス数推移(2022/12/1~2023/4/30)
出所)野村総合研究所(NRI)「日本のChatGPT利用動向(2023年6月時点)」
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/cc/0622_1

世界の生成AI市場は、2030年までに14.2兆円まで成長することが見込まれており、2022年から2030年までの年平均成長率(CAGR)は35.6%と予測されています。(図3)*5

図3:世界の生成AI市場規模
出所)総務省「第1部 特集 新時代に求められる強靱・健全なデータ流通社会の実現に向けて」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd131310.html

多様なサービスを展開する生成AIの技術は、私たちの生活を豊かにし、学習や仕事を効率化させます。
幅広い企業や業界の生産性を向上させ、さまざまな社会課題を解決する技術として期待されています。

生成AIの登場が社会に与えたインパクト

本来、イラストや小説などのオリジナルコンテンツの作成は、機械ではなく、人間が得意としてきたことです。
しかし生成AIは、人間と同じような独創性や表現力をもちながら、凄まじいスピードでアウトプットすることが可能です。

生成AIのアウトプット量の膨大さを示すデータとして、次の図4のような推計があります。*6

図4:画像作成はわずか1年半で150億枚以上の画像を生成
出所)野村総合研究所(NRI)「生成AIと創造化社会」p.2
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/souhatsu/2024/miraisouhatsu-report_vol14_202405.pdf?la=ja-JP&hash=05A5F0ECBCCEEFF1B7A8D0A89CA011C738F653D7

この推計では、代表的な4つの画像生成AIによって、わずか1年半で150億枚以上の画像が生成されたとされています。
写真の場合、撮影枚数が150億枚に達するのに約150年もかかっていることを比較すると、生成AIの登場による社会へのインパクトは相当なものであると考えられます。

生成AIに対するネガティブな反応として、「人間の仕事が奪われてしまう」という意見も多く見られます。
実際、今後生成AIの技術が発展していくことで、これまでは人間でなければ対応できなかった専門業務も代行できるようになるだろうと考えられています。*7

ゴールドマン・サックスが実施した調査では、今後米国における業務の約1/4がAIによって代行されると予測されています。
日本国内も例外ではなく、日本の全労働力の約70%がAIの影響を受けるという調査結果も報告されています。*7

生成AIの普及はエネルギー危機を招く?

生成AIの台頭により、人間の多くの仕事が奪われるのではないかと危惧されていますが、他にも思わぬ落とし穴があります。
それは、生成AIの普及による電力需要の爆発的な増加です。

生成AIは一般的なネット検索と異なり、大量のデータを学習するため、多くの電力を消費します。
IEAの推定では、1回のGoogle検索の電力消費が約0.3Whであるのに対し、ChatGPTへの1度の質問は2.9Whです。*8
つまり、スマートフォンからなにげなくAIへ質問を投げかけるだけで、ネット検索と比較して約10倍もの電力が必要になるのです。

多くの電力を消費する生成AIの普及により、大規模なサーバーを設置するためのデータセンターへの需要も高まっており、国内外で建設が相次いでいます。
世界のデータセンターとAI需要により、2022年から2026年の4年間で、世界の電力需要は最大で約2.3倍の1050TWhまで増加する見通しです。(図5)*9

図5:世界の電力需要(データセンター、AI等)
出所)資源エネルギー庁「電力需要についてp.19
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/056/056_005.pdf

さらに、電力需要が減少傾向にあった国内でもデータセンターや半導体工場の新設によって、電力需要が増加することが見込まれています。(図6)*10

図6:需要電力量(全国合計)の想定
出所)資源エネルギー庁「電力需給対策について」p.10
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/070_10_00.pdf

経済産業大臣は、第7次エネルギー基本計画の見直しにむけて議論を進めるなかで、「日本のエネルギー政策は戦後最大の難所」にあると言及しています。
これは、2050年のカーボンニュートラル実現への道筋が不明確であるのにも関わらず、電力需要増加へ対応していかなければならないという厳しい状況への強い危機感を反映した言葉です。*11

AI時代に求められるのは省エネとGXの加速

来たるべきAI時代にエネルギー危機を引き起こさないためにも、データセンターのグリーン化や省エネが進められています。
AmazonやGoogleなどの既存のデータセンター事業者は、再生可能エネルギーの導入を進めることを表明しており、すでに取り組みを始めています。
国内のデータセンターでも、太陽光パネルの設置や自然光採光の活用などの取り組みを進め、環境負荷軽減を目指しています。*12

2021年に閣議決定した「地球温暖化対策計画」では、新設データセンターの30%省エネ化と再生可能エネルギーの導入を目標としています。(図7)*12

図7:デジタル機器・産業に対する省エネ・グリーン化目標
出所)環境省「データセンターによる再エネ利活用の促進に関するアニュアルレポート」p.22
https://www.env.go.jp/content/000146667.pdf

地域の再生可能エネルギーを活用したデータセンターのグリーン化は、国内外ですでにさまざまな実績があります。
Appleでは、オランダにある自社データセンターで再生可能エネルギー100%での稼働を続けています。
さらに、地域の太陽光発電や風力発電の電源開発にも資金を投入し、再生可能エネルギーの利活用を促進しています。*12

群馬県富岡市にある株式会社アガタでは、自社の強みである太陽光発電設備と蓄電池システムを組み合わせて、データセンターのゼロエミッション化を目指しています。
蓄電池を利用することで、出力に波のある太陽光発電の余剰電力を非常用電源として活用し、地域のデータセンターへの電源供給を安定化する取り組みです。(図8)*12

図8:富岡市上黒岩太陽光データセンター
出所)環境省「データセンターによる再エネ利活用の促進に関するアニュアルレポート」p.39
https://www.env.go.jp/content/000146667.pdf

蓄電池導入の課題となるコストに関しては、非常用電源として活用したり、昼間の余剰電力や夜間の安価な電力を組み合わせることで最適化しています。

データセンターの省エネに関しては、施設ごとの対策だけではなく、社会全体で高効率データセンターを活用するという取り組みもあります。
古いサーバーを最新のデータセンターに移設するサーバー集約や仮想化技術によるエネルギー効率化で、大幅な消費電力の削減が期待できます。(図9)*13

図9:高効率データセンター活用による社会全体の省エネ
出所)グリーンIT推進協議会「データセンタの省エネ/グリーン化推進に向けて」p.6
https://home.jeita.or.jp/greenit-pc/sd/pdf/ds1.pdf

今後急激に進化していくと予測されている生成AIですが、エネルギー不足がその進化にストップをかけてしまう可能性もあります。
そもそも、近年の日本では、政府が電力需給ひっ迫による節電要請をおこなうなど、電力不足が深刻化しています。
そんな状況のなかでの生成AIによる電力需要増大は、日本のエネルギー戦略における喫緊の課題とも言えるでしょう。

驚くべきスピードで進化する生成AIは、社会構造を根本から変えるポテンシャルをもっています。
そのポテンシャルを存分に発揮できる社会が実現できるかどうかは、生成AIを支えるデータセンターの省エネ化・グリーン化が重要な鍵を握っているかもしれません。

参考文献

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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