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カーボンニュートラル

GX時代のまちづくりとは?私たちの暮らす街はどう変わっていく?

「クリーンエネルギー中心の社会を構築する」というGXの概念は、日本のさまざまな産業を変革させていく考え方です。幅広い分野に波及していくGXは、未来のまちづくりにも変化をもたらします。

国土交通省では都市の緑化とカーボンニュートラルの2つを軸とした「まちづくりGX」を推進しています。GX時代のまちづくりを推進するため、都市の緑化に関する新しい法律も公布されました。
さらに2024年6月、北海道と札幌市は自治体としてGXに特化した取り組みをおこなう「GX金融・資産運用特区」に指定されました。風力発電などの再生可能エネルギーポテンシャルの高さが選定理由の一つで、国内外からGX投資を呼び込むことで日本のGXを牽引していきます。

この記事では、まちづくりや地方行政に関する取り組みに焦点をあてて、GX実践に向けた施策を紹介します。

政府が推進するGXの目指すゴールとは?

GXとは、Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)の略称で、化石燃料中心の社会から、クリーンエネルギー中心の社会へと転換するための変革や取り組みのことです。
温室効果ガス削減に向けた取り組みや脱炭素技術の開発を経済成長の機会とすることを目指しています。*1

経済産業省が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は、環境問題への対応をコストとしてではなく、成長の機会であると捉える施策です
グリーン成長戦略では、2050年に向けて成長が期待される14の重点分野を選定しています。(図1)*2

図1:グリーン成長戦略における14の重点分野
出所)経済産業省「グリーン成長戦略(概要)」p.1
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/pdf/green_koho_r2.pdf

14の重点分野はエネルギー関連に限らず、半導体や航空機、住宅、物流、食料など多岐にわたります。グリーン成長戦略は国際競争力の強化や環境負荷低減に寄与するだけでなく、私たちの日々の生活にも多くのメリットをもたらします。

たとえば、14の重点分野の一つである「ライフスタイル関連」では、行動科学やAIにもとづき、エコで快適、かつレジリエントなライフスタイルの実現を目指します。
快適な暮らしの空間を増やすための緑化空間の創出や、大規模災害にも強いまちづくりなど、さまざまな取り組みがあります。*2
その他にも「物流・人流・土木インフラ」の分野では、グリーンインフラによる防災・減災や健康でゆとりのある空間形成、都市緑化によるヒートアイランド対策などを実施します。*2
なお、グリーンインフラとは、自然がもつさまざまな機能を活かして、持続可能で魅力あるまちづくりを目指す取り組みです。*3

このようにGXを実行する施策は、私たちの暮らしや住んでいる街を大きく変化させていく取り組みも含まれています。

緑を増やす!国土交通省が推進する「まちづくりGX」

「まちづくりGX」とは

GXの実現に向けて、国土交通省では「まちづくりGX」を推進しています。まちづくりGXとは、その名の通り、まちづくりにおけるグリーン化のことで、多様な役割を持つ都市緑地の活用と、エネルギーの面的利用の2つを軸とした取り組みです。
まちづくりGXには「気候変動への対応」「生物多様性の確保」「国民のWell-beingの向上」という3つの狙いがあります。*4

人やものが集中する都市は、膨大なエネルギーが消費される場所であり、国内の二酸化炭素排出量の約5割が、家庭や仕事、物流など都市活動によるものです。(図2)*5

図2:二酸化炭素排出量の内訳(2021)
出所)国土交通省「都市行政におけるカーボンニュートラルに向けた取組事例集(第2版)」p.5
https://www.mlit.go.jp/toshi/kankyo/content/001735424.pdf

そのため、都市行政におけるGX推進は、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献するものとして期待されています。

緑にあふれた街を目指す!都市緑地の活用

都市緑地には、生物多様性の確保や温室効果ガスの吸収、都市水害の軽減、地域コミュニティの醸成など、さまざまな効用があります。のびのびと体を動かせる緑豊かな公園は子どもの遊び場になるだけでなく、大人の憩いの場にもなり、散歩や運動はストレス軽減や健康増進にもつながります。
森林は緑のダムとなり地下水を蓄えることができたり、大気や水質の浄化、ヒートアイランド現象の緩和にも貢献します。*6

このように多くの機能を有する都市緑地を活用するために、まちづくりGXでは、「緑地の保全」、「緑化の推進」、「都市公園の整備」などに取り組みます。(図3)*6

図3:都市緑地の活用
出所)国土交通省「「まちづくりGX」について」p.5
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001573282.pdf

量だけでなく質にもこだわった都市緑地を確保していくために、2024年5月29日に「都市緑地法等の一部を改正する法律」が公布されました。
政府主導で戦略的に都市緑地を確保し、緑と調和した環境都市整備に向けて民間投資を呼び込むことを目的とした法律です。*7

都市整備におけるエネルギーの面的利用とは?

エネルギーの面的利用とは、特定のエリア内にある複数の建物をネットワークで連携させることで、電気や熱などのエネルギーを融通しあう仕組みのことです。*6
再生可能エネルギーを積極的に導入することで、街全体でゼロエネルギーを達成するゼロエネルギー街区を実現します。(図4)*8

図4:都市におけるエネルギーの面的利用の目指す姿
出所)国土交通省「まちづくりGXの検討状況」p.26
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001706232.pdf

ゼロエネルギー街区では、一極集中型の系統電力に依存せず、分散型電源によってエネルギー供給をするため、自然災害における大規模停電のリスクを軽減できます。
エネルギーの効率化はCO2排出量を削減することにもつながり、カーボンニュートラルの実現にも貢献します。

日本では、地区や街区レベルに限定されているエネルギーの面的利用ですが、パリやヘルシンキなどのヨーロッパの都市では、街中に熱導管ネットワークを張り巡らし、都市レベルで進められています。*9

日本のGXをリードする!北海道・札幌市の取り組み

2023年6月、GXを推進するため、北海道と札幌市は、産学官金のコンソーシアム(共同事業体)である「Team Sapporo-Hokkaido」を設立しました。*10
さらに、北海道と札幌市は国内外からの投資資金を呼び込むために規制特例措置などが受けられる「GX金融・資産運用特区」に指定されています。*11

北海道と札幌市では、全国随一の再生可能エネルギーのポテンシャルを背景に、GX投資に向けた8つのGXプロジェクトを始動させています。(図5)*11

図5:再生可能エネルギーに関する8つのGXプロジェクト
出所)札幌市「「北海道・札幌市が目指す姿(構想の概要)」p.3
https://www.city.sapporo.jp/kikaku/gx/documents/tokkugaiyozentai.pdf

洋上風力や水素エネルギーなどの脱炭素技術を活かして、地方から日本のGXをリードしていきます。

政府は、カーボンニュートラルの実現と経済成長を両立させるため、今後10年間で官民合わせて150兆円の投資を実現させることを表明しています。
北海道と札幌市では、「GX金融・資産運用特区」を足掛かりとして、世界中のGXに関する情報・人材・資金が集積する「アジア・世界の金融センター」の実現を目指しています。*11

GXの概念は都市行政に浸透していくのか

脱炭素と経済成長を両立させるGXの実現に向けて、まちづくりなどの自治体の取り組みも重要性が増しています。
一方で、国土交通省が自治体に対して実施したアンケートでは、多くの自治体が「カーボンニュートラルに向けた都市行政としての目標がない」「「脱炭素先行地域」などのカーボンニュートラルの取組とまちづくりの連携の必要性を認識しておらず、予定もない」と回答しており、現状では都市行政にGXやカーボンニュートラルが浸透しているとは言えません。*6

GXに取り組む自治体を支援するため、政府は地域脱炭素推進交付金を設けています。
地域脱炭素推進交付金には「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」と「特定地域脱炭素移行加速化交付金(GX)」の2種類があります。
これらは全国津々浦々の自治体が地域特性をふまえて、脱炭素の基盤となる重点政策を実施していくことを推進していくもので、2050年を待たずに脱炭素社会の実現を目指す取り組みです(図6)*12

図6:地域脱炭素推進交付金の事業イメージ
出所)環境省「地域脱炭素推進交付金(地域脱炭素移行・再エネ推進交付金、特定地域脱炭素移行加速化交付金等)」p.1
https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/assets/grants/chiiki-datsutanso-kofukin-R6.pdf

2023年には、2050 年ネットゼロの国際公約の達成に向けてまちづくりGXの取り組み強化を図るため、国土交通省と環境省共同で「脱炭素都市づくり大賞」が新設されました。
この賞を通じて、まちづくりGXに取り組む優れた脱炭素型の都市開発事業の好事例を国内外に発信します。*13

GXが都市行政に浸透していくにはまだまだ時間がかかりそうですが、分散型のエネルギーシステムの構築や都市緑化の取り組みが進めば、私たちが暮らす街はより快適で安全な空間へと進化していくかもしれません。
地域資源である再生可能エネルギーに対して、国内外からのGX投資を加速させていくことは、地方創生にもつながるでしょう。

参考文献

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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