現在、各国・地域は脱炭素化のために、車の電動化を推進していますが、最近、その方向性に少し変化がみられます。
それはどのようなものでしょうか。
次の図3は、2023年初頭までの各国・地域の電動化の目標です。*3
図3 各国・地域の電動化の目標(2023年初頭まで)
出所)経済産業省「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」(2023年4月5日)p.6
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/014_04_00.pdf
ここで注意が必要なのは、同じ「100%」となっていても、ヨーロッパと日本では、電動車の種類が異なることです。
英国とEUは2035年販売目標が、「EVとFCVのみで100%」なのに対して、日本は同じ2035年の目標が、図1で示した電動車の「すべての種類を合わせて100%」です。
また、EUの欄に、「合成燃料のみで走行する内燃機関(エンジン)を搭載する車についても一定条件下で新車販売を認める方向で検討が進む」とありますが、それは現在すでに合意されています。
その動向をみていきましょう。
図1にもあるとおり、EUは、2035年以降はエンジン車の新車販売を認めない方針でしたが、2023年3月28日のエネルギー相理事会でその案を修正しました。
温暖化ガス排出をゼロとみなす合成燃料(e-fuel:イーフューエル)を使うエンジン車に限って新車販売を認めることで、正式に合意したのです。*4, *5
その経緯はどのようなものだったのでしょうか。
エンジン車の販売禁止については、2022年秋、欧州理事会と欧州議会、欧州委員会が合意に達していました。
しかし、それ以降、ドイツやイタリア、中東欧の国々が国内の自動車産業を守ろうと、例外措置の導入などを求めていました。
特にフォルクスワーゲン(VW)など自動車大手企業を抱えるドイツは、イーフューエル容認を強く主張し、エンジン車の販売禁止を修正するよう強く迫っていました。
イーフューエルの原料は、再生可能エネルギー由来の電気によって水を分解して作った水素と、二酸化炭素(CO2)です。*5
イーフューエルを使ったエンジン車は、走行時にはCO2を排出しますが、イーフューエル生産時に消費するCO2を差し引くと、環境負荷は小さいとされています。
しかし、ヨーロッパの環境団体からは、イーフューエルを使ったエンジン車を容認することは「CO2排出量の増加につながる恐れがある」と批判の声があがりました。
一方、ドイツを拠点にイーフューエルの普及をめざす国際団体イーフューエル・アライアンスの事務局長は、「EVを動かす電気をつくるときには化石燃料を使っており、環境対応をEVだけに頼るのは間違いだ」と主張しています。
これに対し、EU関係者は「EVへの移行をめざすEUの基本方針は変わらない。多くの自動車メーカーはEVを選んでいる」と語り、イーフューエルを利用した車の販売は将来も一部にとどまるとの見方を示しています。*4
また、イーフューエルだけで車を走らせる仕組みをつくるには、関連産業全体の技術革新が必要になるとも指摘してます。
自動車メーカーではVWグループ傘下のポルシェが、2022年末、チリでイーフューエルの生産工場を稼働させました。日本ではトヨタ自動車やホンダなども研究に取り組んでいます。
イーフューエルのメリットは、CO2排出が少ないだけではありません。
既存のエンジンや、タンクローリー、ガソリンスタンドなどの燃料インフラが活用できること、化石燃料と同等の高いエネルギー密度を有することも大きなメリットです。*6
EVの場合、充電インフラの整備には国内でも課題が多く、また今後、電動化を世界規模で進めて行く場合の障壁ともなりかねないことを考えると、既存のインフラが活用できるメリットは大きいといえます。*7
しかし、最大の課題は製造コスト。*6
経済産業省の試算によれば、約300円~700円/Lに上ります(図4)。
図4 イーフューエルの製造コスト
出所)経済産業省「CN燃料普及のあり方について」(2023年5月)p.3
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/037_05_00.pdf
そこで政府は、2040年までの商用化を目標に掲げ、高効率で大規模な製造プロセスを確立するために、技術開発を進めています。