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トヨタが新たなエンジン開発を宣言! EVシフトのただ中で、今なぜエンジン車?

「敵は炭素」―トヨタイムズには印象的なことばが踊っています。
脱炭素化を阻むのは、エンジンではないとの主張です。

少し前まで先進国はこぞってEVシフトを推進していました。
ところが、最近、少し風向きが変わってきたようです。

2024年5月、トヨタ自動車、SUBARU、マツダは、エンジンとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHV)やハイブリッド車(HV)向けに、新たなエンジンを開発すると発表しました。

そういえば、筆者のまわりでも、車好きの知り合いが集まって、「EVは車じゃないよね?」などと言っていましたが、それはエンジン車ではないから、ということのようです。

EVシフトのただ中だったはずなのに、なぜ今、エンジン車なのでしょうか。
その動向を探ります。

「電動車」の種類

電気を動力源として使う自動車を「電動車」と呼びます。
ただし、「電動車=電気自動車(EV)」ではありません。
名前が似ているので、ちょっとややこしいのですが、「電動車」にはさまざまな種類があり、そのうちの1つが、動力源の100%が電気である「電気自動車(EV)」です。

電動車にはEVのほかにも、さまざまな種類があります。*1 

すべての種類に共通しているのは、電池、モーター、インバーター(直流を交流に変換する装置)を備えていること。*2
仕組みや燃料の違いによって、以下のように分類されています。*1, *2

● EV・BEV:電気自動車

バッテリー(蓄電池)を搭載し、そこから得た電気を動力源にして走行する。充電は充電スタンドや自宅に設置したコンセントなどから行う。

● FCV・FCEV:(水素)燃料電池自動車

水素と酸素の化学反応によって電気を発生させる「燃料電池」を搭載し、その電気で走行する。水素はステーションで補給する。

● PHV・PHEV:プラグイン・ハイブリッド(電気)自動車

電気とガソリンで走る「ハイブリッド電気自動車(HV)」に、外部から充電できるEVの特性を組み合わせたもの。

● HV・HEV:ハイブリッド電気自動車

2つの電力源をもつハイブリッドカー(HV)のうち、バッテリーから得られる電気とガソリン(またはディーゼル)で走る。車内部のガソリンエンジンが発電機を動かすことで電気を得る。

電動車は、種類によって、長所と短所が異なります(図1)。*1

図1 電動車の種類
出所)資源エネルギー庁「自動車の“脱炭素化”のいま(前編)〜日本の戦略は? 電動車はどのくらい売れている?」(2022年)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/xev_2022now.html

電気自動車(EV)の普及状況と電動化の目標

次にEVの普及状況についてみていきましょう。
下の図2は、EVの販売台数の割合を表しています。*3

図2 電気自動車の販売台数の割合(2022年)
出所)経済産業省「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」(2023年4月5日)p.5
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/014_04_00.pdf

2022年、世界の自動車販売台数は約7,870万台で、そのうち、エンジン車は約80%(約6,262万台)、EVは約10%(約774万台)でした。
エンジン車の方がまだ主流のようです。

主要国・地域別にみると、特に中国とヨーロッパが販売台数を伸ばし、中国は約4台に1台、ヨーロッパは約5台に1台にまで普及しています。
一方、日本は2.2%で、まだまだ普及の余地があります。

電動化の動向

現在、各国・地域は脱炭素化のために、車の電動化を推進していますが、最近、その方向性に少し変化がみられます。
それはどのようなものでしょうか。

2023年初頭までの目標

次の図3は、2023年初頭までの各国・地域の電動化の目標です。*3

図3 各国・地域の電動化の目標(2023年初頭まで)
出所)経済産業省「自動車分野のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」(2023年4月5日)p.6
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/industrial_restructuring/pdf/014_04_00.pdf

ここで注意が必要なのは、同じ「100%」となっていても、ヨーロッパと日本では、電動車の種類が異なることです。
英国とEUは2035年販売目標が、「EVとFCVのみで100%」なのに対して、日本は同じ2035年の目標が、図1で示した電動車の「すべての種類を合わせて100%」です。

また、EUの欄に、「合成燃料のみで走行する内燃機関(エンジン)を搭載する車についても一定条件下で新車販売を認める方向で検討が進む」とありますが、それは現在すでに合意されています。
その動向をみていきましょう。

EU「エンジン車の部分容認」への方針転換

図1にもあるとおり、EUは、2035年以降はエンジン車の新車販売を認めない方針でしたが、2023年3月28日のエネルギー相理事会でその案を修正しました。
温暖化ガス排出をゼロとみなす合成燃料(e-fuel:イーフューエル)を使うエンジン車に限って新車販売を認めることで、正式に合意したのです。*4, *5
その経緯はどのようなものだったのでしょうか。

エンジン車の販売禁止については、2022年秋、欧州理事会と欧州議会、欧州委員会が合意に達していました。
しかし、それ以降、ドイツやイタリア、中東欧の国々が国内の自動車産業を守ろうと、例外措置の導入などを求めていました。

特にフォルクスワーゲン(VW)など自動車大手企業を抱えるドイツは、イーフューエル容認を強く主張し、エンジン車の販売禁止を修正するよう強く迫っていました。

イーフューエルのポテンシャルと課題

イーフューエルの原料は、再生可能エネルギー由来の電気によって水を分解して作った水素と、二酸化炭素(CO2)です。*5
イーフューエルを使ったエンジン車は、走行時にはCO2を排出しますが、イーフューエル生産時に消費するCO2を差し引くと、環境負荷は小さいとされています。

しかし、ヨーロッパの環境団体からは、イーフューエルを使ったエンジン車を容認することは「CO2排出量の増加につながる恐れがある」と批判の声があがりました。

一方、ドイツを拠点にイーフューエルの普及をめざす国際団体イーフューエル・アライアンスの事務局長は、「EVを動かす電気をつくるときには化石燃料を使っており、環境対応をEVだけに頼るのは間違いだ」と主張しています。

これに対し、EU関係者は「EVへの移行をめざすEUの基本方針は変わらない。多くの自動車メーカーはEVを選んでいる」と語り、イーフューエルを利用した車の販売は将来も一部にとどまるとの見方を示しています。*4

また、イーフューエルだけで車を走らせる仕組みをつくるには、関連産業全体の技術革新が必要になるとも指摘してます。

自動車メーカーではVWグループ傘下のポルシェが、2022年末、チリでイーフューエルの生産工場を稼働させました。日本ではトヨタ自動車やホンダなども研究に取り組んでいます。

イーフューエルのメリットは、CO2排出が少ないだけではありません。
既存のエンジンや、タンクローリー、ガソリンスタンドなどの燃料インフラが活用できること、化石燃料と同等の高いエネルギー密度を有することも大きなメリットです。*6

EVの場合、充電インフラの整備には国内でも課題が多く、また今後、電動化を世界規模で進めて行く場合の障壁ともなりかねないことを考えると、既存のインフラが活用できるメリットは大きいといえます。*7

しかし、最大の課題は製造コスト。*6
経済産業省の試算によれば、約300円~700円/Lに上ります(図4)。

図4 イーフューエルの製造コスト
出所)経済産業省「CN燃料普及のあり方について」(2023年5月)p.3
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/037_05_00.pdf

そこで政府は、2040年までの商用化を目標に掲げ、高効率で大規模な製造プロセスを確立するために、技術開発を進めています。

新たなエンジン開発

こうした状況のなか、2024年5月28日、トヨタ自動車、SUBARU、マツダの3社は、電動化に適合する3社3様の、新たなエンジン開発を宣言しました。*8

これまでこの3社はそれぞれ個性的なエンジンを開発してきましたが、それぞれの強みをいかし、モーターやバッテリーなどの電動ユニットとの最適な組み合わせを目指します。

また、エンジンの小型化によるクルマのパッケージ革新や燃費向上、イーフューエルをはじめとする多様なカーボンニュートラル燃料(製造から使用に至る全体で、大気中へのCO2排出が実質ゼロになる燃料)にも対応することによって、エンジンでのカーボンニュートラルを実現すると宣言しました。

トヨタ自動車は、EVの世界販売台数を2030年までに350万台に伸ばす計画を掲げる一方で、エ
ンジンも搭載するHVやPHVなどの多様な選択肢を用意する「全方位戦略」を策定しています。
*9
こうした方向性は、図3でみた、政府の電動化目標とも合致するものです。

宣言の中では、「エンジンを支えるサプライチェーン」や「雇用の未来」についても言及しています。*8
3社がエンジンの開発に力を入れる背景には、系列の部品メーカーへの配慮もあります。*9
EVはエンジン車に比べて部品が3分の2ほどまでに減るため、自動車業界には、EV化が進めば、部品メーカーを守れなくなるという危機感も強いのです。

エンジンへの想い

新たなエンジン開発の宣言は、以下のような文言で締めくくられています。*8

エンジンへの想いや技能を持つ仲間とともに日本の自動車産業の未来を「共創」して参ります。

自動車産業は国の基幹産業として、優れた多くのプロダクツを産み出してきました。
エンジン車のファンは、卓抜した技術を産み出したエンジン技術者をリスペクトし、技術者と「エンジンへの想い」をシェアしています。

そのエンジンを「過去の物」とするのではなく、カーボンニュートラルの推進という文脈でも活用し、より進化させていく―今まさに、そうしたフェーズに入ったといえるのではないでしょうか。

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横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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