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ものづくり

「好きなことを仕事にしてはいけない」は嘘だと思った話。

「好きなことを仕事にすると、その好きなことが嫌いになってしまう」
「仕事と趣味は分けるべきだ」
そんな言葉を耳にすることがあります。

しかし、本当にそうでしょうか。

筆者は20代の頃、好きなことを仕事にしたくて、夢を追いかけていました。「好きなことを仕事にしてはいけない」と言われ、心が揺らいだものでした。

今は、違います。むしろ、仕事を「好きなこと」へ、できるだけ近づけていく努力が大切だと感じています。

この10年は、社会において、多様性やワークライフバランスを重視する風潮が、一挙に強くなった時期でもありました。

「好きなことで生きていく」を勧める声と、「そんなに仕事は甘くない」と否定する声。両方が交錯し、混乱しやすい時代ともいえるでしょう。

「好きなこと」を仕事にする意義について、もう一度、考えてみたいと思います。

好きなことで生きていく?仕事はそんなに甘くない?

YouTubeが「好きなことで、生きていく」のキャッチコピーでプロモーションを展開したのは、じつに10年前、2014年のことです。*1

参考:好きなことで、生きていく(YouTube Japan 公式チャンネル)

このとき、多くの人が新しい価値観に触発され、「好きなことを仕事にしていいんだ」と感じたものです。

一方、見栄重視の姿勢を揶揄する「キラキラ起業」といった言葉も生まれました。”好きなことで生きるムーブ” へ反発する人々も現れたのです。

「仕事を舐めているのか?」
「現実から逃げているだけ。社会は甘くない」
「自己顕示欲や承認欲求が強くて、違和感を覚える」
……などなど、どれも一理ある意見です。

筆者自身は、正直なところ、
「やってみて、失敗して、またやってみればいいんじゃない?」
「キラキラ起業だろうが承認欲求だろうが現実逃避だろうが、他人様の自由でしょうに」
と感じていました。

一人ひとりと向き合えば、その選択には合理的な背景があるはずです。低い解像度で極論を振り回し、ひとくくりに否定するのも賛同するのも、難しいように思います。

「好きなこと」を仕事にするうえでの「お金」の壁

一方、この10年で、「好きなことを仕事にしたい」という方とも、多く出会ってきました。そこで感じたのは、“お金との向き合い方の難しさ” です。

「好きなこと」を仕事にするうえで、「お金」は避けては通れない問題です。しかし、立ちはだかるのは、単なる経済的な壁だけではありません。

「好きなこと」を仕事にするからこその、心理的な壁も乗り越えなければならないのです。具体的には、次の3つの壁が挙げられます。

● 壁1:自分の価値を「お金」で測られるジレンマ
● 壁2:「お金」と「好き」の温度差
● 壁3:なじめない成果主義

壁1:自分の価値を「お金」で測られるジレンマ

多くの人にとって、「好きなこと」は自分のアイデンティティと深く結びついています。それは、自分らしさを表現する大切な手段であり、生きがいそのものでもあるでしょう。

しかし、その「好きなこと」を仕事にするということは、自分の価値が「お金」で測られることを意味します。自分の情熱や想いが、金銭的な評価にさらされるのです。

「自分の好きなことを、お金に換算したくない」
「評価されないと、人生を否定されたように感じる」

こうした感覚を抱くのは、ごく自然なことかもしれません。自分の価値観や生き方が、他者の基準で数値化される違和感は、なかなか拭えないものです。

壁2:「お金」と「好き」の温度差

「好きなこと」には、ときに理屈抜きで没頭してしまうものです。一方、ビジネスの世界では、冷静な判断力や交渉力が求められます。

情熱と理性、「好き」と「お金」。その温度差に戸惑う人は少なくありません。

「ビジネスライクな交渉事が苦手」
「お金の話をするのは、自分の好きなことを、おとしめているようで抵抗がある」

「好き」と「お金」のバランスを取ることの難しさが、ここにあります。「好き」を仕事にした瞬間、好きではない業務にとらわれて苦しくなるケースも、少なくありません。

壁3:なじめない成果主義

「好きなこと」に取り組む喜びは、何物にも代えがたいものです。しかし、ビジネスの世界では、結果がすべてを決めます。

情熱を傾けたからといって、かならずしも報われるとは限りません。ときには、思うような成果が出ず、挫折感を味わうこともあるでしょう。

「一生懸命やっているのに、なぜ評価されないんだろう」
「安定した収入が得られなくて、つらい」

成果主義の荒波に揉まれながら、「好き」を守り抜くのは容易ではありません。ビジネスの現実にも向き合わなくてはならないからです。

壁を乗り越えるために見つめ直す

こうした壁を乗り越えるためには、「お金」と「好き」の関係性を見つめ直す必要があります。

鍵となるのは、「お金」も「好き」も、自分の人生を豊かにする手段だと捉えること。「お金」を目的化するのではなく、「好き」を追求するための道具として活用する。そんな意識の転換が、突破口になるでしょう。

あるいは、業務を通じて「お金との付き合い方を徹底的にマスターする」という手段もあります。

これは筆者自身の経験談ですが、会社員時代、「お金の交渉」を日々の業務として行ううちに、抵抗感が消えていきました。

“慣れた” というのもありますが、何より、お金の大切さを肌で感じたからです。

売値を上げ、仕入れ値を下げ、値引き交渉をし、コストを削減し、マージンを設定する。そうした営みは、「続けるため」に不可欠です。

お金は、好きなことを続けるために循環する、血液のようなもの。汚いものではなく、大切なものです。その認識が深まれば、お金の壁はなくなっていくでしょう。

「好き」のそばにいく努力を重ねる

今、好きなことから離れた場所にいる方にとって、いきなり「好きなこと」を仕事にするのは、ハードルが高いかもしれません。

ご提案したいのは、できるだけ仕事を「好きなこと」に近づけていく努力を重ねることです。

筆者自身、20代の頃はかならずしも「好きなこと」とはいえない仕事をしていました。しかし、徐々にシフトしていきました。

少しでも「好き」に近い会社へ転職する。
社内で「好き」につながる業務に携わる機会を増やす。
「好き」に関連するスキルを磨き、仕事に活かせる領域を広げる。

そうやって、段階的に「好き」の比重を高めていけばいいのです。

「好き」と仕事との距離がどんどん縮まっていった先に、「好き」そのものを仕事にする道が見えてくるでしょう。

さいごに

筆者の知人に、バイク好きと珈琲好きが高じて、ライダースカフェをオープンした方がいます。

その姿を見ていると、“大好きなこと” に囲まれた人生の豊かさを感じずにはいられません。

もちろん、それは誰にでも簡単にできることではありませんが、挑戦する価値はきっとあります。

好きなことに没頭する喜び。
社会に新しい価値を生み出す実感。
自分らしく、自由に生きていく軽やかさ。

キラキラしてみるのも、悪くないはずです。

注釈

  • *1 出所)YouTube Japan Blog「YouTube が動画クリエイター向けの支援を強化。動画クリエイター支援のホームページの公開、撮影セットの提供、クリエイターの大型プロモーション等を開始」https://youtube-jp.googleblog.com/2014/10/youtube.html

三島つむぎ

ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

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