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カーボンニュートラル

GX(グリーントランスフォーメーション)と”ものづくり”との関係は?世界を変える日本の技術とは

最近耳にすることが増えたGX(グリーントランスフォーメーション)とは、これまでの化石燃料中心の社会から、クリーンエネルギーを中心とした社会へ転換させる取り組みです。
GXは、喫緊の課題である気候変動の解決を目的とした「2050年カーボンニュートラルの実現」に必要な取り組みであり、経済性と脱炭素を両立させた持続可能な社会の構築を目指すものです。

GXはエネルギー業界だけでなく、社会全体で取り組むべき課題です。脱炭素分野での新たな市場開拓や国際競争力強化も必要となるため、世界トップクラスのものづくりの力をもつ製造業も重要な役割を担っています。

この記事では、GXと日本のものづくり産業との関係に注目し、GX推進に貢献する日本の技術について紹介します。

GXとはどんなもの?カーボンニュートラルとの違いは

GXとはグリーントランスフォーメーション(Green Transformation)を略した言葉で、経済産業省エネルギー白書によると「産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造を、クリーンエネルギー中心のものへと転換する」ものとされています。*1
これまでも気候変動対策の一環としてクリーンエネルギーは推進されていましたが、GXは日本の産業と経済、そしてエネルギー政策の大転換を目指し、社会全体を変革するものです。

エネルギー供給構造の転換を目指すGXと切っても切れない関係にあるのが、カーボンニュートラルです。この2つは混同しやすいため、一旦ここで整理しておきましょう。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量をバランスさせ、合計で排出量を実質ゼロにすることです(図1)。*2

図1:カーボンニュートラルとは
出所)環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

GXとカーボンニュートラルはどちらもクリーンエネルギーの推進によって脱炭素を目指すものではありますが、GXでは脱炭素だけでなく、GX関連技術による経済成長やエネルギー自給率向上による安定供給の確保も重要な軸となっています(図2)。*3

図2:GX(グリーントランスフォーメーション)の3つの軸
出所)経済産業省「日本のエネルギー政策について~GX実現に向けて~」p.5
https://www.kanto.meti.go.jp/press/data/20230630_gx_setsumei_shiryo.pdf

つまり、GXはカーボンニュートラルもひっくるめた取り組みで、温室効果ガス削減だけでなく、脱炭素化に伴う経済成長やエネルギーセキュリティの向上を実現させるものです。

GX推進が必要である理由

GXが推進される背景には、冒頭でもふれたように深刻化している世界規模での気候変動があります。

気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減は、国を超えた共通の課題として認識されています。
2015年に採択されたパリ協定での「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以内に抑える努力をする」を達成すべく、世界各国は表1のような温室効果ガス削減目標を設定し、カーボンニュートラルの実現を宣言しています(表1)。*4

表1:NDC(温室効果ガス削減目標)とカーボンニュートラル目標

出所)経済産業省 エネルギー白書「第1節 脱炭素社会への移行に向けた世界の動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/1-3-1.html

さらに、GXには、日本固有のエネルギー問題の解決という狙いもあります。
島国である日本は、エネルギー資源に乏しく、国際情勢によっては電力の安定供給が危ぶまれるリスクを抱えています。
近年は、国際的なエネルギー市場のインフレーションによって、電気料金の値上げや電力需給ひっ迫なども生じており、エネルギー自給率向上の重要性が再認識されるようになりました。

このようにエネルギー安定供給の観点からも、化石燃料への過度な依存からの脱却が求められています。*5

GXとものづくり分野の関係とは

2022年12月に政府は「GX実現に向けた基本方針」をまとめ、「エネルギーの安定供給」と「脱炭素社会への移行と経済成長の同時実現」を実現する具体的な政策を打ち出しました。
「GX実現に向けた基本方針」には、エネルギー政策の全体論とGXを進めるための方法論の2つが盛り込まれており、経済成長と脱炭素を両立させるための投資促進対策についても触れられています。*5

この基本方針を受けて経済産業省では、GX投資促進対策として、鉄鋼、化学、紙パルプ、セメント、自動車、蓄電池、航空機、SAF、船舶、くらし、資源循環、半導体、水素等、次世代再エネ(ペロブスカイト太陽電池(軽量・薄型の次世代太陽電池)、浮体式等洋上風力)、原子力、CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)を重点16分野として指定し、「分野別投資戦略」を取りまとめています。*6
「分野別投資戦略」は、重点分野を中心として国内でGX市場を確立し、製品の素材・部品から最終商品の製造に至るまでのサプライチェーンをGX型に革新するという構想です(図3)。*7

 

図3:分野別投資戦略とGX型サプライチェーンの関係
出所)GX実行推進担当大臣「我が国のグリーントランスフォーメーション実現に向けて」p.5
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai10/siryou1.pdf

さらに、文部科学省では、GX実現に向けた新規技術創出事業として「蓄電池」「水素」「バイオものづくり」の3分野をGteX(革新的GX技術創出事業)として指定し、研究開発を支援しています。
この3分野の基礎研究において国内の大学や研究機関は高いポテンシャルをもっており、企業との連携によってイノベーションを起こすことが期待されています。*8

日本のGXを牽引する蓄電池と水素技術の現在地

蓄電池と水素は、GX投資推進対策とGteXのどちらでも重要な分野として指定されています。
次に、GX実現に貢献する技術である蓄電池と水素の動向について紹介していきます。

カーボンニュートラル実現の鍵を握る蓄電池

蓄電池とは、繰り返して使用できる充電式の電池のことで、クリーンエネルギーを中心とした電力システムにおいて重要な構成要素の一つです(図4)。*9
図4:カーボンニュートラル実現の鍵となる蓄電池
出所)内閣官房GX実行推進室「分野別投資戦略について③(蓄電池・自動車、SAF・航空機、船舶、資源循環)」p.7
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/senmonka_wg/dai3/siryou.pdf

系統用の定置用蓄電池は、発電量が天候に左右され、出力の不安定な太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの運用に欠かせない装置です。
電力系統システムに蓄電池を直接接続することで、電気が足りない時は放電し、電気が余った時は充電することができます。
車載用蓄電池は電気自動車に搭載されるもので、現在はリチウムイオン電池が主流です。*10

日本の電池技術関連は、世界をリードしており、特許出願数は全世界の約3分の1を占めています(図5)。*11

図5:電池技術の国別特許出願数の推移
出所)サイエンスポータル「電池技術の特許出願、日本トップ 欧州特許庁など調査」
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20201008_01/

一方で、現在主流であるリチウムイオン電池には、安全性や性能、寿命などの課題がたくさんあります。*10
そのため、リチウムイオン電池に替わる次世代電池の本命とされているのが、すべて固体で構成される全固体電池です。
全固体電池は長寿命なうえに、不燃性で安全性が高いというメリットがあり、実用化が可能になれば、日本の産業を支える基本技術の一つになると期待されています。*12

2023年10月には、トヨタ自動車と出光興産が全固体電池の量産化に向けて、協同していくことを発表しました。
材料開発から量産化までの流れをすべて両社で担うことで、国際競争力を高め、GXの実現にも貢献するプロジェクトです。*13

世界をリードする日本の水素技術

水素も蓄電池と同様にカーボンニュートラルの鍵となる技術です。
水素は発電事業以外にもさまざまな分野で活用できるため、世界の水素需要量は今後大幅に増加していく見込みです(図6)。*14

図6:世界の水素等需要量と水素等需要の広がり
出所)資源エネルギー庁 水素・アンモニア課「GX実現に向けた水素政策の動向」 p.8
https://www.kyushu.meti.go.jp/event/2312/231220_1_1.pdf

水素をエネルギーの主力として活用するためには、「つくる」「ためる.はこぶ」「つかう」のサプライチェーンを構築していく必要があります(図7)。*15

図7:脱炭素化に向けた水素サプライチェーン
出所)環境省「水素社会実現に向けた取り組み」 p.2
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/PDF/WEB_2023-suiso_pamphlet_J.pdf

水素サプライチェーンの重要な要素である、水電解装置や海上輸送技術、燃料電池技術などは、日本企業が高い国際競争力を持っています。
燃料電池の特許数は世界一を誇り、海上輸送に関しては世界に先駆けて液化水素運搬船による輸送を成功させています。*14

また、2023年6月には、日本とオーストラリアの海事当局間で液化水素輸送の要件について合意しました。これにより大型液化水素運搬船の設計が可能となり、国際水素サプライチェーン商用化の実現にまた一歩近づきました。*16

まとめ

「クリーンエネルギー中心の社会を構築する」というGXの概念はあまりにもスケールが大きく、正直ピンとこないという方も多いかもしれません。

しかし、GXは単なるエネルギー政策ではなく、社会の経済システム全体の変革を目指すものです。
そのため、幅広い分野の多くの人が関係する、広がりをもった取り組みと言えるでしょう。

日本ではGXの実現に向けて、蓄電池や水素などの技術開発が積極的に進められており、世界をリードする革新技術の創出が期待されています。
日本がこれまで培ってきたものづくりの優れた技術は、新しい社会を創造するための力強い柱のひとつとなるでしょう。

参考文献

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

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